長編1
□第三章:王子と少女
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「うーん……。ひょっとしたら、昔、母さんに連れられてレイドックに行った時に会ってるのかも」
「レイドックって……言ったっけ? 僕がレイドックに住んでるって」
ウィルの質問に、少女は呆れた顔をした。
「だって、魔法が使えないのにここにいるなら、すぐ近くのレイドックに住んでいるとしか考えられないじゃない。それにさ、それってレイドック王家の紋章じゃないの? 危ないから、外出する時ぐらい外せば?」
「あ……」
身につけていたベルトのバックルを指差しながら言う少女に対し、ウィルは開いた口が塞がらなかった。
王家の紋章は、その城と深く関わり合いがあるか、それとも城下に住んでいるか。そのどちらかでないと、普通の人間にはなじみのないものだ。
世界にはいくつかの国家があるのだから、身近な所でないと理解出来ないのが当たり前だろう。
しかし、これまでの会話からすると、この少女はレイドックに住んでいないらしい。かと言って、城で見かけた覚えは無かった。
それ以外で関係ありそうなことを、ウィルは素早く考えたが、どれもこれも少女には当てはまりそうになかった。
「きみってひょっとして、どこかの国の王女様?」
ウィルは呆然とするあまり、突拍子もないことを口にしていた。同じ王家の人間ならば、他国の紋章を目にしていてもおかしくはない。
しかし案の定、少女は唖然としたが、すぐに笑いだした。
「やだなあもう! さっき言ったでしょう? 母さんと二人で暮らしてたって。王女様がそんなことする?」
「そういえばそうだね。それに王女様って感じしないし」
ウィルも笑いながら言った。
「ふんだ。キミって結構ハッキリ言うわね。言っとくけどね、キミだって王子様には見えないからね」
「言われなくたってわかってるよ! ……ああ、それから僕はウィルっていうんだ。キミはやめてくれないかな。慣れないから変な気がするんだ」
「……ふーん、ウィルね。やっぱりどっかで聞いたことあるなあ……。あたしはバーバラ。年は十五だよ。一応よろしく」
どこまでも明るいバーバラの態度に半ば感心、半ば呆れてしまったウィルだったが、同じくその名前には聞き覚えがあるのだった。
「こちらこそ。それにしても、同い年なんて信じられない」
「えっ! 同い年なの!? 年下かと思ったのに」
バーバラは信じられないといった様子で呟いた。
「年下はひどいなあ。僕から見ればバーバラだって……。ああ、それより魔法使いなら、僕に魔法を教えてよ」
バーバラの腕前がいかほどなのか、ウィルには皆目検討もつかなかったが、いま頼れるのは彼女しかいなかった。
そんな願いに、バーバラは腕組みをして少し考えていたものの――。
「まあいいけど。どうやら、あたししか教えてあげられる人がいないみたいだし。最近は毎日ここに来てるから、いつ来るのか教えてくれれば、その時間はいるようにしてあげる」
「ありがとう! じゃあ、お昼から夕方までお願いしてもいい?」
断られるだろうとばかり思っていたウィルは、思わぬ返事にホッと安心した。
「ん、いいけど……。王子様でしょう? そんなに長い時間、お城をあけたりして平気なの?」
「大丈夫だとだと思う、多分」
「そう? なら決まりだね! それじゃあ、今日はウィルも疲れてるみたいだし、明日からにしよっか。遅れないでよ。じゃあね。……ルーラ!」
遠くの場所にも一瞬で移動できるルーラの魔法を使うバーバラを見て、腕は確かかもしれないと感じたウィルであった。
「……僕もそろそろ帰ろうかな」