長編1
□第七章:王子と仲間達
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旅立つのは明日という話になったので、三人はもう一度ホーキンスに礼を言うと酒場を出た。
太陽は高くなっていたが、暑いというほどではなかった。海が側にあるからだろうか。
「……ねえ。ホーキンスさんが言っていた女の子は、ウィルの知り合いなの?」
酒場を出てから一言も話をしようともしないウィルを見て、ミレーユが遠慮がちに言った。
すると、彼はようやく聞き取れるほどの小さな声で、それを認めた。
「お前なあ! そんなに落ち込むぐらいなら、どうして一人で行かせたりしたんだよ!? その子がどれだけ強いかは知らねえが、相手はあのムドーだぞ!」
「僕だって知らなかったんだ!!」
厳しい口調のハッサンに対して、ウィルは大声で怒鳴った。すると、周りにいた人々が一斉に振り向いた。
ハッサンとミレーユも驚いてしまい、場所を人気の無い桟橋へと変えた。
肌にとって良い気候であり、海から流れてくる風は潮の香りがした。
これがもし普段通りであれば、穏やかさに満ちた雰囲気を存分に味わっていたかもしれない。
しかし、今日はそのような気分にはとてもなれないのであった。優しいはずの風までもが、三人の冷えきった心をますます冷たくしているのだった。
このような状況は、特にハッサンにとって厳しいものであった。平穏無事な人生を送ってきた彼が、慣れているはずなどない。
よって、厳しい瞳でウィルを凝視するばかりだった。
「知らなかったってどういう意味だよ、おい! ムドーに一人で挑んだって勝てっこねえだろう!」
「わかってるよ! だから、知ってたら絶対に一人で行かせやしなかった! 絶対に!!」
どこにもやり場のない怒りと苦しみを吐き出すかのように訴えるウィルに、ハッサンは驚いた。彼がこれほどまでになっているのを見たのは初めてだったのだ。
言い争う二人の横で、ミレーユは落ち着いた様子を続けていたが、あまりにも長く続くので口を開いた。
「二人とも、そう悲観的にならないで。その子がホーキンスさんの言った通り、カルベローナの血を引いているのなら」
「どういうことだ?」
「伝説の魔法都市カルベローナは、随分前に滅びたけど、理由は、マダンテという最強の攻撃魔法が伝えられていたからだと言われているの。使える人は限られていたようだけど、そうでなくても住人全員が魔法を使えて、しかも威力は並じゃなかったと聞いたわ。だから、何とかなるかもしれないわよ」
ミレーユは夢でも見ているような目つきをしていた。
無理もない。
魔法を操る者にとって、カルベローナは憧れの地なのだ。その都市の生き残りがいたとなれば、自然と心が弾んでくるのだろう。
このように言われたハッサンは、しばらくの間、黙って思案していたが、やがて口を開いた。
「でもよ、もしカルベローナの奴じゃなかったら絶対にやばいぜ。何しろ、普通の相手じゃないんだからな。そうだったしても、その何とかってのが使えなかったら、どうなるかわかりゃしないんだ。……ウィル、お前にとやかく言ってもしょうがねえけどよ、無事を祈るしかねぇのかもな……」
以前見たあの不思議な魔法がマダンテだったのかもしれない……。
そんなことを考えながら、ウィルはバーバラの無事を祈るばかりであった。