俺とボクの道標
□俺とボクの食い違い
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――何だ、またお前か? もう二度と来ないでくれって言ったろ?
残念ながらそうもいかないと言ったはずだ。すぐに忘れる癖は直した方がいいと思うよ。
――あー、そういやそうだったな。ったく、同じ俺なのにうるさいやつだ。何か用があるから出てきたんじゃないのかよ。
あ、そうそう。前から聞きたかったんだよね。どうしてキミは、あの子を好きになったの? ……ねえ、聞こえなかった? あの子を好きになった理由が知りたいんだ。
――どうでもいいだろ、そんなこと。何でいちいちお前に言わなきゃならないんだ?
何でってキミはボクで、ボクはキミだからに決まってるじゃないか! 自分のことを知りたいと思うのに理由なんかある? それとも何かい? 説明出来ない程度の気持ちしか持ってないってこと?
――ふざけるな!! 俺がバーバラをそんな理由で好きになったりするもんか!
だったら教えてよ。どうしてなのかが、すごく気になるんだ。わからないと余計に知りたくなる。単純な理由だよ。
――言ったところで、お前にわかるのか? ずっと避けてたんだろう?
そうだよ。ボクはずっと、恋愛なんかくだらなくて時間の無駄だと思ってた。言っとくけど、ボクは父上の方針で城下町の学校に通って、多くの友達が出来た。キミより女の子について詳しいと思うけど。
――ああ、そうかもな。だけどお前はだめだよ。
ダメ? どうしてダメなんだい?
――確かに俺の記憶は、ライフコッドで生活していた時のものが大半だ。けどなあ、少なくともお前よりは知っているさ。そうじゃなきゃ、誰かを好きになったりしない。
じゃあ、それが正しいとしようか。キミは大魔王を倒した後、どうするつもり?
――どうするって、レイドックの王子として暮らすしかないだろう。
そう。キミは王子としての生活に戻る。規則だけが要求される、がんじがらめの王宮が待っているんだ。そして、いつかは誰かと結婚して子供を作る。その相手はあの子じゃない。
――何でだよ!!
だってあの子は……キミだってわかっているだろう。キミは、家臣達が選び抜いた娘とお見合いして結婚して、子孫を残すんだ。好きになるだけ無駄だって、これで良くわかったはずだよ。
――わからないよ、そんなの! 誰がそんなの認めるもんか! それに、少なくとも父さんは、そんなのは望んでいないと思う。俺にはわかるんだ。母さんを選んだ父さんなら、きっとわかってくれるって。
そんなこと! ボクより短いキミに、何がわかるって言うんだよ!
――ああ、そうだな。だけど、お前だって同じはずだ。子供の頃から二人共忙しくて、一日のほとんどをセーラと過ごしていたようなものだから。本当は、とっくに気が付いているんだろう? 父さんと母さんは、俺達が嫌がるようなことを望んでいない。俺達が選んだ人なら、喜んで迎えてくれるさ。
だからって、あの子がどう考えているのかわかっているのか? あの子は一度だって口にしない。これだけ付き合いが長いのに、ただの一度だって! それはつまり、キミが考えている程の想いを持っていないということじゃないか。
――だからお前はだめなんだよ。全然わかっていないのはお前の方だ。偉そうなこと言うな!
何だよキミだって! ……ああ、もう時間だ!