俺とボクの道標

□俺と彼女とセバスの兜
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 ライフコッドの村で一人に戻った俺は、レイドック城に戻った。
 仲間達に強く勧められたからだ。


 ……正直、嫌で嫌でたまらなかった。

 だってそうだろう? 

 レイドックと言えば、遥か北のライフコッドから、ずーっと西に位置するアモールの町までも治める、ばかでっかい国だ。
 そんなところの王子なんて、はっきり言って俺には合わないんだ。
 
 それに……いまだ元の自分に戻っていないから。


 城門をくぐった時から、人々が大勢押し寄せていて、俺の姿を一目見ようと躍起になっていた。
 昔の俺は、よっぽど慕われていたんだなあ。

 国王と王妃、つまり俺の両親も、喜んで迎えてくれた。

 だけど、俺は複雑な気分だった。この二人を見ても、何の感情も湧いてこない。
 こんな俺が息子を名乗っていいんだろうか。

 それなのに、シェーラ王妃――俺の母親は、全てを理解してくれていた。
 抱きしめられた俺の胸の中に、これまでと違う感情が出てきたことは事実だ。
 やっぱり、二人は俺の両親らしい。


 その夜は城をあげての宴会が開かれ、全てを忘れてどんちゃん騒ぎ。

 酒が入った勢いで、何度もバーバラに抱きついたけど、彼女は何も言わなかった。
 そんな俺を、両親や城の人々が不思議な目つきで見ていたのもわかった。


 ――そして。

 シェーラ王妃――いや、母さんに頼まれた俺は、一緒の部屋で寝ることにした。

 十八にもなって母親と寝るのはどうかと思うけど、何年も城をほったらかしにしていたんだ。
 いくら記憶が無いとは言え、罪滅ぼしはしないとな。

 だけど、母さんと言っても、俺にとってはまだまだ王妃様。
 そんな状況で眠れるはずもなく、身体を起こした時に、招待されていたグランマーズからはっきりと言われたんだ。
 ハッサンやミレーユと違って、時間がかかり過ぎた俺は、完全に元には戻れなかったのだ、と。

 わかっていたけど、記憶が無い状態で王子として生活していかなきゃならないのか。
 これからずっと……。


 グランマーズの勧めで城内を歩いた俺は、色々と思い出した。

 「レックにいちゃん!」と、俺の後をいつもくっついて来た、妹のセーラ。
 あの子は本当に可愛くて、母さんはセーラが幼くして命を落としたその時から、ムドーの研究に熱心になったんだ。
 そして、俺はターニアに面影を見ていたのかもしれない。

 中通路では、ゲバンの策略によって命を落とした兵士長のトムに、散々鍛えてもらったんだ。
 それまで剣術は、単なるたしなみとしか考えていなかった俺が、懸命になって練習したのはいい思い出だ。

 図書室では、大勢の学者と一緒に、父さんが病に倒れた原因を調べたんだ。そんな時に母さんまで倒れて。
 それで俺は、この手で両親を救いたくて城を抜け出そうとしていた時に、ハッサンと出会ったんだよなあ。

 ……ああ、やっぱり俺は、この国の王子だったんだ。


 段々と東の空が明るくなり、さすがに眠気に襲われてきたので寝室に戻ろうとしたら、玉座には父さんがいた。俺と同じで眠れなかったのか、それとも早起きなのか。

 父さんは色々なことを話してくれて、最後に一つの兜を取り出した。
 ムドー討伐の際に手に入れたというそれは、「セバスの兜」と呼ばれる伝説の武具の一つだとか。
 何が伝説なのかはわからないけど、有難く受け取った。これのおかげで父さんが死なずに済んだんだから。


 昼過ぎに目覚めた俺は、遅い昼食を取った。
 仲間達はとっくに起きていたし、ここにいる以上、王子としての振る舞いを要求されるから、一人で食べていた。

 それにしても、何だかつまらない。
 王族の暮らしぶりは、はたから見れば華やかに映るが、実際はそうじゃないのかもしれないな。
 
 「おはようレック」

 食後のコーヒーを飲んでいた俺に声をかけてきたのは、バーバラだった。

 「おはよう。ごめんな、すっかり遅くなって」
 「気にしないで。昨夜あれだけ騒いだでしょう? ハッサンやアモスは、レックと同じくらいに起きたんだから」
 「バーバラは?」
 「あたし? あたしは大丈夫。あれくらいじゃ、酔っぱらったりしないから」

 あれくらい?
 かなり飲んでいたように見えたのは、気のせいだったということか?

 「城中の人達が、早くレックに会いたくてウズウズしてるみたい。向こうで吟遊詩人がレックの歌を作ってたし、メイドさんは王子様はステキだって、何度も言ってたわ。結婚の約束でもしてあげたら〜」
 「……ヤキモチ?」
 「ちっ、違うわよ! あたしは別に……」
 「バーバラ!! 心配しなくても、俺はバーバラ一筋だよ! やっぱり君は可愛いなあ! 昨夜はほったらかして悪かった。後でたっぷり頑張るからな!!」
 「レックのばかああああ!!!」


 「……のうシェーラ。間違いなくあの子は、我々の息子なんだろうな?」
 「え、ええ。間違いありませんが、こうまで変わるものなんですね。改めて思いますわ。ムドーとは恐ろしい存在でしたのね」

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