俺とボクの道標

□俺と彼女の転職事情
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 現実世界のフォーン城が、内海と外海をつなぐ水路を管理していたが、いまの手段では到達出来なかった。
 しかし、夢の世界のクリアベールから空飛ぶベッドを使うと、側まで移動することが出来た。
 
 たどり着いてすぐに俺達は、国王への謁見を願い出た。
 だけど、王様は地下室に飾られた、巨大な鏡の中に囚われているカガミ姫のことしか、頭に無いらしい。
 
 ……全く。
 政務を放り出してまで一人の女性に夢中になるなんて、国王のすることなんだろうか。

 「言っとくけどなあ、お前も人のことは言えないんだぞ」
 「何だよハッサン。俺はやることはちゃんとやってるよ」
 「どうだかなあ」
 「一部については認めてあげるわ」
 「僕もミレーユさんに同じく」
 「何だよみんなして! バーバラあ! 何とかしてくれよー」
 「……あたし知らない」
 「おやおや、レックさん。ついに愛想尽かされましたかね?」
 「そんなんじゃない!」


 夢の世界のほぼ中央。でかい砂漠のど真ん中に建つのが、魔術師の塔。
 そこに、カガミ姫をあんなにした元凶がいるらしい。

 勇んで乗り込んだ、その途中。

 「お、レック。やっと正拳突きを覚えたな!」
 「これで旅がラクになりますね」
 「ああ。回し蹴りもあるし、もうバッチリだな。そうと決まれば、ダーマ神殿にレッツゴー!」
 「ええっ!? 何を言っているの? まだマスターしたんじゃないわ。先は長いのよ」
 「そうですよ、レックさん」
 「そもそも、さっき行ったばかりなのに、また行くの?」
 「ごめんなバーバラ。だけど、俺も色々考えてるんだしさ」

 仲間達からは非難ごうごうだったが、俺は全てを無視してルーラを唱えた。
 こういう時は覚えていて良かったと、つくづく思う。


 「……なるほど。レックは僧侶になりたいと申すか?」
 「はい」
 「僧侶だとお!? んなことしたら、戦力ダウンだろが。何考えてんだ、お前は!!」
 「大神官様。外野は無視していただいて結構ですから、よろしくお願いします」
 「う、うむ。ではレックよ。僧侶の気持ちになって祈りなさい。おお、この世の全ての命を司る神よ! レックに新たな人生を歩ませたまえ!」

 
 ――てなわけで、バトルマスターを目指していた俺は、戦士を極めた後に就いた武闘家を途中放棄し、僧侶になった。
 
 あえて選んだ理由。それは……。

 「はあ……。何でこうも、一人で決めたがるんだかねえ。いい加減にしろっての!」
 「何でって、こう見えてもリーダーだし、未来の勇者だし……まあ、そんなのはどうでもいいから」
 「どうでも良くはねえだろが」
 「あー、はいはい。……さあ! 次はバーバラの番だよ!」
 「え? あたし? 遊び人途中だよ?」
 「いいからいいから。ほら早く。僧侶になって」
 「ええっ?」
 「あのお、レックさん? 僕は既に僧侶をマスターしましたし、ミレーユさんはべホイミが使えるうえ、ハッサンさんやレックさんまで僧侶になったのですから、もうこれ以上必要無いと思いますが」
 「チャモロの言うとおりよ。いまは、全員が色々な特技を身につけることを優先すべきだと思うわ」
 「私もそう思いますね」
 「全くだぜ! 特にお前は早くバトルマスター極めて、勇者になる必要があるだろが」
 「あのなあ、俺は色々考えて、こういう結論を出したの。回復魔法の使い手は、一人でも多い方がいいだろう? 魔の島で散々苦労したのを忘れたか!!」
 「うっ……」
 「それはまあ……」
 「そうなんだけどね。だけどねレック、それにしても……」
 「私は魔の島やムドーやらについてはわからないので、何とも言えないですが」
 「だよねー、アモス! あたしだって同じだよ。それに、遊び人が気に入ってるんだし……」

 俺は有無を言わさずという感じで、バーバラの手を握った。
 途端、赤くなったりして可愛いなあ。

 「いいかい? 俺が僧侶になったのは、バーバラの為なんだよ?」
 「あたしの、ため?」
 「そう。みんなに任せなきゃならない状況が嫌だった。どうしても、俺の力で回復したかったんだ!」
 「…………」
 「だからバーバラも、俺を回復してくれると嬉しいんだけど、そんなに嫌なら仕方が……」
 「……嫌だなんて、一言も言ってないじゃない」
 「え?」
 「あたしもずっと思ってたの。同じこと」
 「本当か? ああバーバラ! やっぱり俺達、気が合うんだな!!」
 「レック……」


 「……どうすりゃいいんだ。この展開」
 「ミレーユさんのお力で、何とかなりませんか?」
 「チャモロこそ、ゲント神のご加護はどうしたのよ」
 「無理ですよお。いま邪魔したら、それこそレックさんに何されるかわかりませんし……」
 「一瞬で殺されちゃいますよね? きっと。絶対に阻止せねばっ!」

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