俺とボクの道標
□俺と彼女とワガママ王子
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バーバラと想いが通じ合って、数週間が過ぎた。
あの時、仲間には一部始終が筒抜けだった。
そりゃあそうだよな。あれだけ大声出したんだ。
うわああ、何てバカなことをしでかしたんだろう!!
しかも翌朝、宿の主人が「ゆうべはお楽しみでしたね」なんて言うもんだから、俺とバーバラは言葉が出なかった。
まさか、この人にまで見られてた!? と思っていたら、枕投げについてであって、後で仲間に散々からかわれた。
でも、相当前から気が付いてたらしく、バーバラが相談したこともあって、特にハッサンとミレーユが機転をきかせたらしい。
その直後が、アークボルト北の宿屋の一件だったってわけだ。
それならそうと早く言ってくれと、不満を口にしたら、ハッサンに笑われたあげく、自分で何とかすべきだと言われた。
確かにそうだけど、もしかしてこいつ、俺のこと見て面白がってたんだろうか!?
――――……
現実世界にやって来た俺達がたどり着いたのは、ホルストックという田舎の国だった。
あたり一面、畑が広がっていて、一応城はあるが、のんびりした雰囲気が漂っていた。
それなのに到着早々、王子の洗礼の儀式に同行して欲しいと言われた。それぐらい楽勝だと思った俺の考えは、甘かった。
この王子の名前はホルスと言うんだが、これがまた、ワガママを絵に描いたようなガキで、どうしようもないくらい。
儀式を受ける洞窟に連れて行く前から、散々手こずらせやがった。
ホルスを探して城内を歩き回る羽目になり、みんな不満タラタラで、もちろん俺も例外じゃないけど……。
「ちょっと気が重くなってきたけど……やるしかないわよね。頑張ろうね、レック」
「もちろんだよ、バーバラ!!」
王子はともかく、バーバラの笑顔はやっぱり可愛い。
思わず抱きしめそうになった俺は、かろうじて踏み止まった。
他人の視線ってのは、俺にはどうでもいいんだけど、バーバラがすごく嫌がるんだ。
せっかく彼女になったんだから、もっと手をつなぎたいし、抱きしめたりキスしたり、その他にもあんなことやこんなことや……って、俺は何を考えてるんだー!!
ともかく色々したいのに、そのどれもが拒否されまくっていた。
あの性格とは裏腹に、バーバラはそういうことについては奥手だったんだ。
おかげで、人前では絶対に手をつないでくれないし、抱きしめたら固くなるし、キスにいたっては片手ですら余る程度しかしていない。
それだって、ねだってねだってどうにかだもんな。
……はあ。
ようやくホルス王子を探し当てて、洗礼の洞窟に向かったものの、俺達は既に疲労が溜まっていた。
いつも元気なはずのバーバラも、さすがにホルスには参ったらしい。
「王子といると、気が休まらないわ」
と言ったら、ホルスのヤツ、こともあろうか、こう言いやがった!
「オレだって休まらないさ……」
「何だとお!? おいホルス! バーバラに向かって偉そうなんだよ!!」
「うわあっ!! 何だおまえ! おまえこそ、人のこと言えないじゃないか」
「馬車でのんびりしてるくせに、何抜かす! 少しは表に出ろ!」
「ちょっとレック!? 落ち着いてよ!」
「あなた、王子に何をする気なの?」
「落ち着けレック!」
「レックさん、気持ちを確かに!」
「とにかく、王子の儀式が無事に済むように、みんなで頑張りましょう!」
どうにかしてやりたかった俺を、みんなが必死になって止めた。
……そうだった。曲がりなりにも、一国の王子なんだよな。
だけど、洗礼の洞窟にたどり着いた後も逃げまくり、俺達が代わりに戦っているにも関わらず、逃げる逃げる!
ホルコッタの村に自力で戻れる体力があるなら、同行する必要は無いだろうって思った位だ。
「全く、あんな弱虫王子は、洗礼よりもお説教を受けさせた方がいいですね!」
今回ばかりは、さすがのアモスですら、いつもと全然違っていた。
俺達のおかげで儀式を済ませたホルスだが、感謝の言葉も出てきやしなかった。
まあ、最後の方はちょこっと言ってるかなあとも思ったけど。
ホルスを良く知る人達に言わせれば、別人かと思うほどに変わったらしいが、とても信じられない!
その後、ホルスを祝うパーティーが催され、俺達も招待されたんだけど……。
「あっ、あのさバーバラ。今度いつ、ここに来るんだ?」
「うーん、いつかなあ。あたし達の旅はまだまだ続くと思うし、いつかなんてわからないわ」
「そうだよな……。だったら、終わったらでいいからな、その……オ……オレとダ……」
「バーバラ! ここにいたのか! 随分と探したよ」
「レックじゃない! あたしこそ探してたんだよ。どこに行ってたの?」
「そんなことより、もうすぐダンスが始まるらしいんだ。踊ってくれるよな?」
「うん、いいよ。いこっ!」
「…………」
ホルスの奴、バーバラに手を出そうなんて、百年早いんだよ!
次ページに後書き。