俺とボクの道標
□俺と彼女と高まる想い
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アークボルトを後にした俺達は、旅人の洞窟を通り抜けて北に向かっていた。
途中、古びた教会と宿屋があって、野宿を強いられていた俺達には救いの神だった。
迷わず、今夜の宿をここに決めて、食事をして、風呂に入って、後は明日に備えた確認だけになったけど。
……とても出来そうになかった。
明日も早いからさっさと終わらせたいところだが、浮かんでくるのはあの笑顔と、高く響き渡る朗らかな声。
こうして宿屋にいる時はいい。男女が同じ部屋になることは、よほどでない限り有り得ないから。
お金を管理しているのは俺だから、確実に実行しないと、女性二人の反感を買うのがわかっていた。
しかし、野宿となると話は別だ。
夜の見張りは一人二時間で、一時間毎に入れ替わるんだけど、どうしたって一緒になる時がある。
そうすると、周囲の静けさもあり、彼女のことしか考えられなくなってしまう。
どうにかして気を紛らわせようとするけど、バーバラは元々話好きだから、何かにつけて、もちろん小声で話を振ってくる。
それが嬉しいんだが、見張りについている以上、話ばかりしてられないから、何度黙れと言ったことか。
それでもめげないバーバラを見てると、俺もあきらめモードというか、相槌を打たないといけない気分になる。
すると、どうしたって彼女の仕草の一つ一つが目に入ってきて、その場に居てもたってもいられなくなってくる。
それが嫌で嫌でたまらなくて、最後は俺が無理やり話を終わらせて、どちらかが眠りにつくというパターンだった。
頭の中がグシャグシャで、一体どうしたものか。
アークボルトや旅人の洞窟でのこともあるし、ひょっとしたらバーバラは……。
そこへやって来たのが、ハッサンだった。同室だから戻って来たというのが正解だが、突然声をかけられた俺は、心底驚いた。
「どうしたレック? そんなに難しいのか?」
「いや、そうじゃないんだけど……。なあ、ハッサン」
「うん? 何だ?」
「あのさあ、俺ってバーバラに嫌われてるんだろうか」
「はあ!? イキナリ何言い出すんだ?」
「頼むから大声出さないでくれよ。聞こえたらどうするんだ!?」
「おっと、こりゃ悪かったな。それで? どこをどうして、そういう結論になったんだ?」
「何かにつけて邪魔ばかりするし、言うことはいちいちうるさいし、黙って欲しい時でもやたらと話しかけてくるし」
途端、ゲラゲラと笑われた。だから、大声出さないで欲しいんだが。
……いや。それより、何かムカツク。
「なるほどなあ。お子ちゃまなレックくんは、そうとしか捉えられなかったってか。こりゃあ、バーバラも前途多難だな」
「誰がお子ちゃまだよ、誰が!! それにバーバラが何だって?」
「だーかーらー。前途多難だよ、ったく! ミレーユもよりによって、こんな面倒くさいこと押しつけやがって……。ともかくだ。バーバラは嫌ってなんかいないと思うぜ」
「何でだよ」
「お前がさっき言ったことは全部、あいつなりに頑張ってるからだろう。月鏡の塔で強引にくっついて来たんだ。少しでも役に立とうと必死なんだろうぜ。まあ、オレも人のことは言えないがな。こんなの、見てりゃあわかるだろが」
――はっきり言って、全然わからなかった。その前に、どうして気づくのかが疑問だ。
そのようなことを言ったら、またしても「お子ちゃま」だと言われた。
ああ、本当にムカツク!
だけどその後、ハッサンはこうも言ったんだ。前と比べれば全然違う……と。
前と言うのは、俺がレイドックの王子として暮らしていた時、ムドー討伐の為に城を飛び出して、ハッサン、ミレーユと三人で旅していた頃のことらしい。
その時の俺は、恋愛は時間の無駄だと切り捨てていたとか何とか。
「ふーん、そうだったのか。……って、俺は恋愛がどうこうなんて、一言も言ってないんだけど」
するとハッサンは、大きなため息をついて理由を説明した。
俺は全然意識していなかったけど、アークボルトから不機嫌をまき散らし、旅人の洞窟では魔物に八つ当たりしてるように見えたらしい。
同行した三人はハラハラし通しで、バーバラまでもが俺の気を紛らわせようと必死だったとか。
「普通に戦ってたつもりだけどなあ」
「どこがだよ、どこが! それがなあ、何だ。『青い閃光』が帰った後から、急に機嫌良くなっただろ? いくら鈍いオレでも、いい加減気づくぜ? バーバラ本人はまだみたいだが、ありゃあ同じだから、仕方がねえのかな」
「同じってハッサン、さっきから言ってることを合わせると、まるでバーバラも俺を好きだって聞こえるんだけど」
「だから、そう言ってんじゃねえか!」
……俺は、本気で卒倒するんじゃないかと思った。
女性と言えば妹のターニアと、幼馴染のジュディぐらいしか知らないほどの田舎で育ち、将来はジュディと結婚するもんだとばかり思っていたこの俺が、色恋沙汰に足を突っ込んだのも意外だったんだ。
これからどうすればいいんだろう!!