俺とボクの道標
□俺と彼女と「青い閃光」
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――到着した時から、どうも嫌な予感がしてたんだ。
「悪いな、先を急ぐんだ」
「……何だあいつ。カンオケなんか引きずって、どこへ行くんだ?」
「若いけど、何だか雰囲気に凄みがありましたね」
「愛想の無い人だったわね。でもカッコいいじゃない! もう少し背が高かったら完璧なのに!」
「全身青い服で、私みたいですよね! しかもカンオケ引きずって、私も引きずって歩いてみたら、憧れてもらえますかね?」
……最後はまあ、置いておくとして。
何気ない一言だったんだろう。
こんなの、これまでだって何度も聞いたじゃないかと、自分に言い聞かせたところで、胸の奥のつかえが取れるわけもなかった。
――――……
ムドーを倒した俺達を迎えてくれた、レイドック王とシェーラ王妃。
シェーラ王妃は俺を見ながら、間違いなく、自分の息子が見ている夢なんだと言った。
ムドーの居城でハッサンが一人に戻った瞬間を目の当たりにした以上、もう一人の俺がレイドックの王子である可能性は高いだろう。
しかし、どこにいるかまでは、手がかりすら無かったので、探しに出ることにした。
幸い、仲間達は付き合ってくれると言うので、まずは、夢の世界で復活したダーマ神殿で職に就いた。
それから現実世界へと戻り、神の船でゲントの村の遥か北へと向かった俺達は、モンストルという町で一人の男と出会った。
過去における魔物との戦いのせいで、夜な夜な魔物に変身していながら、その時の記憶が一切無いという戦士アモスと。
彼をどうにかすべく、俺達はモンストル北の山に落ちていた理性の種を使った。
おかげでアモスは自分をコントロール出来るようになったんだが、俺達について来てくれることになった。
アモスは「さん」付けすると嫌がるので、こう呼ぶようにしたが、俺達よりも年上なのに、何と言うか、空気をぶち壊す天才だった。
言ってることは面白いからいいが、それにしたって今時こんな大人がいたのかというのが、全員の感想だ。
アモスのおかげで戦闘が大分ラクになった俺達は、その勢いで戦の国アークボルトに到着した。
そこで出会ったのが、一人の剣士。「青い閃光」と呼ばれる、さっきの少年だ。
冷たい雰囲気を放つその容貌は、男の俺から見てもかっこいいと思う。それは認めるよ。
それにしても……。
「青い閃光」は、北東にある旅人の洞窟に巣食う魔物退治の為に、棺桶を引きずっていたとわかった。
かなり後れを取ったものの、俺達も向かうことになった。
入口は狭くて、馬車は置いていかなきゃならなかった。
全員でほったらかして行くわけにも行かず、誰を残すかで迷ったが、結局、俺とハッサン、それにミレーユとバーバラにした。
アモスは文句を言うどころか、笑顔で「私にお任せ下さい! この機会に、ファルシオンを我が物にして見せますから!!」だとさ。
……それも困る。
内部は魔物だらけで、息つく間も無い程だった。なぜチャモロを連れて来なかったのかと、後悔した位だ。
どうして俺は、バーバラを連れて来たんだろう……。
ここでのバーバラは、地底魔城の時のように、はっきり言えば邪魔だった。
いまの彼女は踊り子で、更に体力が落ちたから、おとなしくしとけと何度言ったことか。
それなのに、相変わらず攻撃やら魔法やらをやらかして、その上、新しく覚えた特技まで披露してくれるときた。
あの可愛い笑顔でやる踊りに見惚れたのは事実だけど、その度にかばう俺の傷が増えていった。
始終、ミレーユの回復魔法に頼り切りだったし、本当に困った奴なんだ。
わかっていたのに、それでも連れて来たかったのは、あの「青い閃光」と出会った時の一言のせいだ。
あーあ。これって完全に嫉妬してる、よなあ……。
洞窟の奥深くで、ここの主と化したバトルレックスを、華麗な剣術と魔法であっさりと倒した「青い閃光」。
その振る舞いはまるで、優雅な踊りでも披露しているかのようで、さすが噂になるだけの実力を兼ね備えていた。
しかし、俺達を見たそいつは、嫌味な台詞を吐き捨てると、棺桶に死体を詰めて去って行った。
何なんだよ、一体! 何なんだよ、アイツは!!
「行っちまった……」
「テリー……、本当に強いのね……」
「なーにが引っ込んでろよ! 協力してあげようと思ったのに。あーあ……。これで雷鳴の剣はテリーの物かあ……」
……え? ……ええっ!?
あ、そうですか……。うん、そうだよな!
俺は一瞬驚いたけど、もちろん態度に出したりしない。
「まあまあ。やること終わったし、さっさと帰ろうぜ!」
「レックは悔しくないのか? 雷鳴の剣があいつのものになっちまうんだぞ!」
「悔しいけど、俺達が遅れたのが悪いんだ。仕方がないよ」
「……お前ってほんと、わかりやすいヤツ」
「何が?」
「何でもねえよ」