俺とボクの道標
□気になる彼女に自覚した
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「みんなお帰りなさい!! すっごくすっごく心配したん……」
「バーバラーーっ!!!!」
「えっ? レック!?」
「遅くなってごめんなバーバラ!! 一人にして悪かったよ! 大丈夫だったか? どこも何ともないか?」
「う、うん。あたしはこのとおり、ピンピンしてるよ。それより、レックこそ大丈夫? ケガでもしたの? にしては普通に見えるけど」
「全部、僕の魔法で治したから大丈夫ですよ」
「そもそも、こいつがケガしてるように見えるか?」
「……ううん、全然」
――――……
幻の大地が現実世界で、俺が旅立ったライフコッドがある上の大地が夢の世界。
上だ下だと呼んでいた二つの世界の関係について、現実にあるレイドックの王様から教えてもらった俺達は、船を借りる為に、王様の書状を持ってゲントの村へ行った。
そこで、俺と同じように精霊のお告げを聞いたチャモロが仲間になり、俺達はゲント族が所有する神の船で、ムドーを倒すべく、エーゲ海に浮かぶ魔の島へと向かった。
ゲント族は癒しの術に長けているらしく、中でも長老の孫のチャモロは、回復魔法の技術に優れていた。
しかも彼が所持するゲントの杖は、べホイミの力を秘めていたから、こりゃあ五人がかりでかかれば、ムドーなんか楽勝だと思っていた。
それなのに、着いた途端にバーバラが残ると言い出して、もちろん反対したけど、ミレーユに神の船の留守番が必要だと言われたことも気になったから、やむなく残した。
だけど、だけど……。
「なあ、ハッサン」
「……何だ」
「バーバラ、大丈夫かなあ。あんな所に一人残して、もし、魔物が襲ってきたら……」
「あのなあレック。あいつがそう簡単にやられると思うのか? お前は」
「思わないさもちろん! 思うわけがない! だけど、もしとんでもないヤツが現れたりしたら……」
「心配しなくても大丈夫よ。バーバラは、夢だったとは言え、一緒にムドーと戦った程の腕前だもの」
「そうだけど、もし水や食料が尽きたらそれこそ……」
「それも大丈夫ですよ。旅立ちの際に山と積んできましたから。レックさんもご覧になったでしょう?」
「それはそうだけどさ……」
「ああっ!! ったく、いい加減にしろよ! 口を開けばそればっか! お前の頭にバーバラ以外のことはないのか? 少しは状況を考えろ!!」
それはこっちの台詞だと言ったら、ハッサンと口喧嘩になり、ストーンビーストを呼び寄せたもんだから、当然ながらミレーユの怒りをくらった。
チャモロも顔はにこにこしていたが、目が笑っていなかった。
……二人とも、魔物より恐ろしいんだが。
――――……
これより少し前。
夢の世界に君臨する魔王ムドーの本拠地、地底魔城に乗り込んだ俺達は、無事に倒した。
そこでのバーバラは、正直、活躍したとは言い難い。彼女は攻撃魔法は秀でていたが、ミレーユと違って格段に体力が無かった。
まあ、妹のターニアもそうだったし、俺と同じ十七歳って考えればそんなものだろう。普通の女の子が魔物とやり合うこと自体、不思議なくらいだし。
だけど、とにかく弱くて、まさかミレーユに守らせるわけにはいかないし、かと言ってハッサンには前線で活躍してもらわなきゃならないから、必然的に俺が守る立場になった。
そうなると、否が応でも視線に入ってくるんだ。あの、元気だけが取り柄のような、すばしっこい小柄な身体が。
ちょこまかと動きまくるのはいいんだが、体力無いくせに魔法放つし、いばらの鞭で攻撃するわで、少しは防御に徹して欲しかった。おかげで、俺まで余計な怪我を負わされる羽目になるし。
その度に謝りはするんだが、全く反省していないのはすぐにわかる。
ほんっとう、いい加減にして欲しかったが、おかげで地底魔城最深部までの道のりが短く感じられたから、一応、貢献していたわけだ。
だけど、それだけじゃないと気付いたのは、現実世界のムドーの元に向かう途中だった。
いつも嫌になるほど聞いていた、魔法の詠唱。くるくると動き回る姿。そして何よりも、何度怒鳴ったか知れないあの、途切れることを知らないおしゃべり……。
どれを取っても聞こえないし見えないことが、これほど心に響いてくるなんて、この時までは想像もしていなかった。
それで、やっと、わかったんだ。……俺は、バーバラのことが好きなんだ、と。