俺とボクの道標

□俺と彼女のこれが始まり
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 ……何だろう、この気持ちは。

 
 「えっ!? あたしに何をしているの? あたしの姿が見えるの?」
 「ああ、見えるよ」
 「うわあ! やっと見つけたわ! あたしの姿が見える人を! みんな見えないみたいで、話しかけても返事もなくて……。ホント、寂しかったわよ!!」


 ――――……

 上の世界――つまり、俺とハッサンが最初にいた世界にあるアモールの洞窟で、若いイリアとジーナを助け出した後。
 いまでは「下」と呼ぶようになった幻の大地で、年取ったイリアとジーナから鏡の鍵を受け取ったんだが、俺にはどうも、この辺が良くわからない。
 何で老人かと思えば、若かったりするんだ!?
 
 ともかく俺達は、同じ世界のレイドック城北西にある月鏡の塔に向かった。話によれば、ここにラーの鏡があるらしい。


 月鏡の塔、鏡の鍵、ラーの鏡……。


 言葉だけ並べてもそうなんだが、この塔は何でこんなにあるのかってくらい、どこを見ても鏡だらけ。入ってすぐにあったトリックだって、魔物が鏡を巧妙に利用していたときた。

 その魔物――ポイズンゾンビがこれまた強くて、しかも内部は、俺とハッサンの攻撃が全然効かないシャドーっていう、言わば幽霊みたいな奴が出てくるから、ミレーユは大活躍だった。
 かつて、彼女と意見が合わない時があったなんて嘘みたいだと思える。


 そんなふうにして進んでいた時に、現れたんだ。半透明の身体を大きな鏡に映している少女が。

 きっと、俺達と同じ上の世界から来たんだろうってのがわかったから、俺は声をかけた。

 すると、ビックリしたように髪を揺らしながら振り返った少女の姿が可愛いと思ったのは、まあ認める。ミレーユが大人の美人だとするならば、おそらく美少女の類に入るんだろう。その瞳はキラキラ輝いていた。
 それなのに、奥の方にはどこか憂いを含んだものがあって。妙に引き付けられるハッキリとしたその瞳に一瞬、ドキッとしたのは事実だけど……。

 ……何だ、この弾丸トーク。

 基本、こういう場所にいる時の俺達は、余計な話をしない。
 ハッサンと二人だけの時は、あれこれ言いながら進んでいたけど、魔物に気づかれやすいと理解したので、くだらない話は町に戻ってからにしている。
 ミレーユも、外観を裏切らないしとやかな女性だから同じだ。

 それなのに、この少女――バーバラと言うらしいが、俺達の考えなんか何のその。自分がいかにしてこの塔まで来たかという経緯を、聞いてもいないのに話しまくっていた。
 姿形からして想像していたけど、まさかここまで元気ハツラツだとは意外だった。
 
 多分、これまで人と話せなかったんだから、仕方ないのかもしれない。

 ……わかってる。ああ、わかってるさ! 

 それにしたって、俺はいつまた、魔物が……特にシャドーが襲ってくるかと、気が気じゃないってのに!!


 謎の力でてっぺんに浮かんでいた小部屋の中に、ラーの鏡が安置されていた。夢見のしずくのおかげで既に元の身体に戻っていたバーバラは、真っ先に飛びついた。

 「あったわっ! これがラーの鏡よね! すごーい! 思った以上にきれいだわ」

 ……どうでもいいから、早くどいて欲しい。
 そう言おうとした俺は、言葉を飲み込んだ。

 「だけどさ、これだけなんだよね。あたしの記憶が元に戻るんじゃないし。ラーの鏡っていうくらいだから、もっとすごいことがあるかと思ったのになあ」

 うつむいてつぶやくバーバラは、本当に悲しそうで……。

 「あたし、これからどうしたらいいのかしら。うーん……。見たところ悪い人じゃなさそうだし、しばらくは、あなた達についていくことにするわ。いいでしょ?」
 「女の子一人だと、これから先が危ないものね」
 「にしても、随分と強引なヤツだな。まっ、オレも人のことは言えないけどな。どうする? レック」

 記憶が無いバーバラをそのままにしておくのは気が引けたし、何よりも……。

 「いいよバーバラ。一緒においで」

 何よりも、俺と同じ境遇だったんだ。気持ちは痛い程にわかるから、どうしても放っておけなくて承知した。
 ……後で、我ながら何っつうことを言ったんだと、激しく後悔したけど。

 「やったあ! あたし、もう一人じゃないんだね! 今日からは仲間よ。よろしくね!!」

 でも、こんなに喜んでくれてるんだし、まあいっか。

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