俺とボクの道標
□苦労してます俺達は
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「ああ! もう! 何なんだよ一体! ミレーユ、頼むから少しは考えてくれよな!」
「あら、もちろん考えてるわよ。少なくとも、あなた達よりはね」
「だったら、何でここでヒャドを連発するのか、教えてもらおうか!」
「連発だなんて失礼ね。それに、助かったのは事実でしょう?」
「それは認める。だけど、先はまだ長いんだ。少しは節約してくれって言ってるんじゃないか!」
「まあまあレック。落ち着けよ」
――――……
山間の村ライフコッドで精霊のお告げを受けた俺は、旅に出た。
その後、成り行きでレイドック城の兵士採用試験を受け、合格したのはいいが、王様は、俺が知りたかった幻の大地については、良く知らないと言いやがった。
その上、ラーの鏡とやらを探して来いと命令されて、正直断りたかったが、兵士である以上そうもいかず、これまた、行きがかり上くっついて来たハッサンと共に旅を続け、いまは幻の大地にある夢見の洞窟を探索中だ。
この幻の大地というのはとても不思議な場所で、俺とハッサンの姿は他人に認識されない。
勘のいい奴には何となくわかるらしいが、会話が出来ないせいで、随分と苦い思いをした。
そんな時に現れたのが、ミレーユだった。田舎育ちの俺はもちろん、ハッサンも鼻の下を伸ばしっ放し。
美しいとしか形容の仕方が無い容姿の彼女は、道行けば誰もが振り返る。賞賛する言葉は全て、ミレーユの為にあるんじゃないかと思えてくる程だ。
まるで、絵画から抜け出てきたような女性が目の前にいて、しかも輪郭がぼやけている俺達が見えて、きちんとした会話が成り立つことが驚きだった。
――――……
ミレーユに案内されてやって来たのは、港町サンマリーノの南東に位置する屋敷だった。
そこで、夢占い師グランマーズから夢見のしずくを取って来いと言われ、調子がいいとは思ったが、ミレーユも同行してくれたので最初は喜んでいた。
何しろ、攻撃魔法はもちろん、俺一人では手一杯な回復魔法まで使える万能タイプだったから。
おまけに女性にしては珍しく、しかも、しなやかな外見からは想像もつかない程に体力があって、洞窟なんてのに潜るのが憂鬱だったから、こりゃあラク出来そうだと思っていた。
……そう、思っていたんだ! それなのに!!
洞窟にたどり着く前から、ヒャドを使って使って使いまくる!
もちろん回復もしてくれるが、往復の距離がわからない俺としては、回復に重点を置いて欲しかったし、出来れば魔法を使って欲しくなかった。
だけどミレーユは涼しい顔して、「大丈夫だから心配しないで」を繰り返すばかり。いい加減、イライラしてくるってもんだ。なのにハッサンときたら、彼女の言いなりになってるし。まあ、あの笑顔で言われりゃ、無理もないけど。
だけど、俺達こんなんで、大丈夫なのか!?
夢見のしずくがある祭壇は、気味の悪い化け物ブラディーポが陣取っていて、俺達をつまみ代わりに食おうと襲いかかってきた。
しかし、ある程度の力と装備を備えた俺達の敵じゃない……はずだった。
「こいつ、思った以上に強いぞ!」
「うわああああ!!!!」
「大丈夫かハッサン!! ミレーユ、ハッサンを頼む!」
「任せて! …………あ、あら?」
「だああああーーっ!!! どうしたミレーユ!?」
「ホイミ、使えないみたい」
「なっ、何だってえ!!? それはつまり、魔法力がカラになったと?」
「ええ、そのとおりよ。ごめんなさい」
「ーーっ!! だから言ったんだ! 一体どうしてくれるんだよっ!?」
「大丈夫。おばあちゃんにもらった薬草があるから」
「にしたって……わわわっ! この野郎、いい加減にしろっ!! 気持ち悪い身体、近づけんな!!」
「ケエー! ニンゲンごときがエラそうな!! しかもオマエラ、オレさまをムシしてナニ、くっちゃべってやがる!!」
「……その前に、早くオレを何とかしてくれええええ」
ギリギリではあったが、薬草と俺の回復魔法が通じたおかげで、夢見のしずくを手に入れることが出来た。
その後、姿が元に戻った俺達に、ミレーユは同行を申し出た。
彼女の本音――俺達が本当の意味で力を持っているかどうかを見極める為に、あえて好き勝手に振る舞っていた――を聞いた俺とハッサンは、もちろん歓迎した。
その後は俺の作戦に従ってくれるし、とても思慮深くて、すごく頼れる女性だとわかったんだ。
それでも今回の件で懲りた俺は、正直、魔法使いはみんな同じなんだろうと思っていた。