俺とボクの道標
□恋愛について考えること
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「――ってことで、賛同してくれた兵士達が船を動かして、港で落ち合う手筈になっている。足りない物は調べてくれると言っていたけど、一応、僕達も出来るだけ買っておいた方がいいと思うんだ」
「そうね。お金にはまだ、余裕があるんでしょう?」
「問題無し」
「んなことよりレック、お前すげえなあ」
「何が?」
既に相棒ぐらいにはなっているハッサンが、何とも言えない、どちらかと言えばいやらしげな眼で僕を見てきたが、本気でわからなかったので聞き返すと、ミレーユが微笑みを浮かべた。
「あら、気づいていないの? とても注目されているみたいよ。どうやら、王子様だからという理由じゃないみたいだけど」
「ああ、そのこと。それがどうかした?」
「どうかしたじゃないだろう。こんなに女から注目されてるってのに。くうううう!! うらやましいぜっ!!」
ハッサンが何度もどついてきたが、正直、勘弁して欲しかった。この手の話題は苦手だからだ。
「どうでもいいよ、そんなこと。何があるわけでもないし」
「何言ってんだよ! あるかないかはお前次第じゃないか!」
「やけにあっさりしてるわね」
しつこく聞いてくる二人。ここまで言われる理由は、もちろんわかっている。
自分で言うのも何だが、僕は女性から人気がある。しかも女性だけでなく、男性にも。城にいた頃は、それこそ毎日のようにプレゼントの嵐で、後始末を側近達に任せたほどだ。
一応、誤解のないようにしておくと、男性からプレゼントを受け取った記憶はないし、老若男女からだという点であって、僕に男とどうこうという趣味があるわけではない。
「あのなあ、この際だから言っとくけど、僕は恋愛には一切興味が無いんだ」
「一切!?」
「ああ」
「おいおい、マジかよ? 少しも? これっぽっちも?」
「そのとおり!」
「理由を聞いたらいけないかしら? 話したくないのなら構わないのだけど」
「いけなくはないし、話したくないわけじゃない。はっきり言って、時間の無駄だからだ」
「無駄だとお!?」
「ああ。二人とも知ってのとおり、僕は国に戻れば王子をやって、将来は国王に就かなきゃならない。そうなると必然的に、結婚相手はどこぞの国の誰それや、有力な貴族のご息女やら何やらってことになる。相手はもう、決まってるも同然だ。そんな状況で恋愛なんかして、何が楽しいと思う? 好きになったところで、いずれ別れなきゃならないなら、最初からしない方がいいに決まってる」
「……お前なあ、それって、人生の貴重な青春の時間を無駄に過ごしてるようなもんだぞ」
「あははっ! ハッサンから青春なんて言葉が出てくるとはね!」
「おい! 何だよレック! オレは一応お前を心配してだなあ!」
「それはどうも。だけど、ハッサンにはわかりっこないね。あんな生活」
「私達は王族の暮らしを経験したことがないもの。だけどねレック、王様になるのならなおのこと、女性に目を向けるのも必要じゃなくて? 人々を統治する立場のかたが何も知らないなんて、やっぱりどうかと思うわ」
「心配してくれてありがとう、ミレーユ。だけど、勉強はしてるから大丈夫」
「そういう問題じゃないのだけれど」
「ああ!! もうやめやめ!! こんなくだらない話よりも、さっさと買い物済ませよう! さっきも言ったとおりお金はあるから、出来る限りの薬草と聖水と……」
まだ何か言いたげな二人だったが、やっと思い出したようで、僕達は当初の目的へと戻った。この時は、まさかあんなことになるなんて、思いもよらなかった。