長編2
□第五章:懐かしき人々
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港町サンマリーノ。
南の大陸の東方。遥か昔に廃墟と化したダーマ神殿から続く一本道を延々と歩いた場所にある。
商業都市という規模で考えれば、世界に散らばる王都を別にすると、娯楽の町として有名なロンガデセオと肩を並べるほどの大きさを誇る。
町に接しているのは、穏やかな内海だ。おかげで漁獲高は、年間を通じて規模を保っているにも関わらず、主力はサービス業である。
というのも、レイドック城がある北東の大陸を結ぶ定期航路があるせいなのだ。
レイドック城を要とする一帯の賑わいは、まだ健在だったダーマ神殿の時代の頃から大陸随一である。
それならば、サンマリーノを領土に持つガンディーノ城も同様だが、そびえる山脈のせいで交通は不便極まりない。
よって、ガンディーノの配下だと気づかない人も多い。
北と南の大陸を移動する民が後を絶たず、物資の頻繁な往来もあるのだが、陸路を使えるような距離ではないので、海路が中心となる。
従って、船が一日に何本も往復しなければ追いつかないほどだ。
これによりサンマリーノは、南の大陸の玄関口として発展を遂げた。
商店街には世界中から集められた各種の物産品が、所狭しと並べられており、ロンガデセオより小さいながらも、カジノだってある。
以前は、北の大陸へ向かう航路の間に魔王ムドーの拠点があったせいで、活気は失われていた。しかし、今では往年の賑わいを取り戻しつつある。
また、平和がもたらした恩恵の一つとして、他国へ行く海路も数多く出るようになった。
おかげで、この町は細々と続く漁業を営む者、他の町へ行き来する者、旅の中継地点として利用する者など、様々な年齢層の人々であふれていた。
商店街も、前とは比較にならないほどの活気を見せており、品物の量や質は遥かに向上していた。
「この町ってこんなに賑やかだった? 何だか息が詰まりそう」
「平和になって、新しい定期航路が開設されたからな。にしてもほんと、すごい人だなあ」
ウィルとバーバラは人込みの中、ハッサンが言っていたホーキンスの手下を探して歩いていた。
この町は迷路のような造りになっており、特定の場所に行こうと思えば、あちこちをぐるぐると迂回せねばならない。
その複雑怪奇な特徴は、以前であれば、魔物の侵攻を防ぐ重要な役割を果たしていたのだが、今となっては面倒くさいだけだった。
その上、あふれかえる人! 人! 人!
環境への適応能力が高いはずのバーバラですら、この騒がしい雰囲気にウンザリしていた。
二人は一応顔がわからないように対策をしたが、この人混みでは用をなさないとわかり、すぐに取り払った。
あれから一年。
ハッサンやミレーユと一緒ならばともかく、一般的な服装をした勇者達に気づく人間など、いるはずもない。
従って、二人は安心して、かつて訪れた、町の外れの酒場へ向かった。