長編2
□第四章:三度(みたび)魔の島
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ルビスの城を後にした一行は、かつてムドーの島と呼ばれていた場所へと急いだ。
辺りは星空から晴天へと、いつの間にか変わっていた。
以前は夜ともなれば、交代で不寝番に就いて、絶えず気を配らねばならなかった。
しかし、この平和な時が流れるようになってからは、舵を下ろして流されないようにしておけばよい程度にまで落ち着いていた。
そうは言っても、ある程度の結界を張る必要はあるのだが、魔物除けではなく盗賊対策である。
もし仮に襲われたとしても、彼らにかなう輩がいるかは疑問だが、面倒はなるべく回避したいのが本音。
それでも、長年の習慣からか、夜中にふと目覚めてデッキに行けば、誰かしらが起きているというのが実情だった。
帆一杯に受ける風のおかげで、船は快調に進んでいく。大海原の天気は上々だった。
突然凪にぶつかることもあるが、魔法の力を借りれば問題はなかった。
しばらくして、スフィーダの盾を眺めていたチャモロが、残りの伝説の武具を先に集めた方がいいのではないかと言い出した。
彼の言うことには一理合った。
オルゴーの鎧は天空城にあるが、ラミアスの剣はロンガデセオにいるサリィに預けてあり、セバスの兜はレイドック城の宝物庫に保管してあるのだ。
「確かに、ウィルだけ行ったって、伝説の武具がなかったら意味がねえな。それに、ラーの鏡だって必要だしな」
「それもそうだ。じゃあ、手分けして取って来るか」
ハッサンとテリーの言葉に、ウィルは首を横に振った。
「いや。一度戻ると、サンマリーノから出航しなきゃならないだろ? それよりこのまま行って、後から取って来た方が早いと思うんだ。ラーの鏡は取って来てあるし」
「ならそうしましょう。あと五日しかないんですもの。時間は有効に使わなくてはね」
ミレーユはそう言ってから、地図を眺める彼らを横に、船縁に寄りかかって海を眺めているバーバラの側へ行った。
彼女はルビスの城を出て以来、話の輪に加わろうとせずにぼんやりとしていることが多かった。食事時ですらその調子であり、終えると早々と部屋に引っ込んでいた。
「どうしたの? 黙り込んだままなんて、らしくないわよ。大丈夫?」
「ええ、ありがとう。ただ何だか……」
バーバラは最初、ミレーユに対して笑顔を向けていたが、言葉を切り少し考え、再び話し始めた時には目がおびえていた。
「ああ!! 私、怖いんだわ。もう一人の自分が見つかって、全てを知るのが怖くてたまらないの!」
「その気持ち、良くわかるよ」
ウィルは優しい目を向けながら言った。
「俺だってそうだった。でも、現実から逃げてばかりはいられない。ちゃんと見つめなきゃ駄目だって言ったのは、君じゃないか」
「わかってるわ。でも、いざ自分の番となると……。人には偉そうに言っておきながらおじけづくなんて、どうしようもないわね」
「もう一人の自分だなんて、不安になるのも当然だけど、乗り越えなきゃならないの。頑張って!」
「そうだぞ。落ち込んでるバーバラなんて、らしくねえな!」
「僕らはずっと、バーバラさんに会いたかったんです。あと少しじゃありませんか。勇気を出して下さい!」
ミレーユが、ハッサンが、チャモロがバーバラを励ました。
テリーは会話に加わらなかったが、気にしている様子は誰の目から見ても明らかだった。
姉と再会を果して一年以上。彼も少しはかどがとれたのだろうか。
バーバラは、一年ぶりに再会した仲間達の友情が薄れていないとわかり、感激していた。
以前とは違う生活を送る以上、日々の目まぐるしさから忘れられているのかもしれないと不安だったのだ。
いつしかその目からは、涙が溢れていた。
「みんな……ありがとう。私、みんなと会えて本当に良かった! 一緒に旅が出来たのが本当に嬉しい!」
「お礼を言うのは早いわよ。そのセリフは見つかるまで、取っておかないとね」
ミレーユはバーバラを抱き寄せて、優しく肩を叩きながら言った。
「そもそもだな、言う相手が違うんじゃねえのか? なあ、ウィル。待ってたかいがあって良かったな!」
「な! いきなり何言いだすんだよ!?」
ハッサンにひやかされて、ウィルは顔を赤くした。その様子に、笑いは一層大きくなった。