長編2

第二章:解き明かされた真実
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 現実世界のレイドック城。

 
 じき二十一歳になるウィル王子は、フランコ兵士長を相手として、剣の稽古に励んでいた。
 ――――いや、フランコの方が鍛えられていると言った方が、正解かもしれない。なぜなら、相手をしていてもその力は押され気味なのだ。

 日が高くなってから開始して、まだ三十分がたっていないだろう。
 傍から見れば、どちらも互角といったところ。しかし、注意深く観察すれば、違いが生じていると気がつくはず。
 例えば、ウィルが未だに意気揚々としているのに対して、十歳年上のフランコは肩で息をしていた。彼は、何とかついていっているという具合だ。

 となれば、生まれるのはおぼつかない足取りに、致命的な隙。兵士長という大役を任されているのだから、本当のプロでなければわからない程だが、確かである。

 不幸なことに、相手はそのプロだった。よって、あっという間に一本取られる羽目となる。
 ごく当たり前の動作だというのに、その瞬時の身のこなしは、剣術に長けたフランコですら、目を見張るものがあった。

 「ま、参りました! とてもかないません!!」

 木刀を突きつけられたフランコは、とうとう降参してしまった。
 たかだか三十分程度で音を上げるなど、普段の彼からは全く考えられない。だが、それも無理ないのだ。何しろ相手は勇者なのだから。

 「何だよ、もうあきらめるのか? そんなんじゃ兵士長の名がすたるぞ」
 「そう仰られましても対等にやれるのは、ご友人のハッサン達ぐらいでしょうな、きっと。殿下が強過ぎるんですよ。少しは手加減願いたいものです」
 「そうかなあ。以前に比べると腕は落ちたよ。平和ボケしてるからなあ……。まあ、いいや。今日はこれくらいにしておこうか。どうもありがとう」

 そう言うと、ウィルは木刀を片付けて、駆け足で行ってしまった。
 
 残されたフランコは、自分の記憶の彼方にある幼い王子が、これほどまでにたくましく成長したことをしみじみ思うのと同時に、ようやく激しい稽古から解放されてホッとしていた。


 ――――……

 自室に戻ったウィルが着替えていると、付人がやって来て、客人の来訪を告げた。
 待ち構えていたのは、もう一つの故郷とも呼ぶべきライフコッドの村長の娘で、同い年のジュディだった。
 彼女は、ウィルが旅を終えて半年ほどたってからというもの、毎日のようにやって来るのだ。
 それは、同じ村に住む青年と、妹同様に接する少女の縁があった時期に重複していた。

 「ウィルってばひどいじゃない。せっかく来たのに追い返すなんて!」

 部屋に通されたジュディは、薦められた椅子に優雅な振る舞いで腰をかけたが、口調は全くの別物だった。
 というのも、彼女は二時間程前にもやって来たのだが、門番に追い返されたので腹をたてていたのだ。
 ちなみに、まともに行けば一週間はかかるレイドック〜ライフコッド間をたやすく往復しているのは、キメラの翼を大量に受け取っているからだ。

 彼女がやって来たその時間、つまり午前中は毎日がハードスケジュール。
 
 起床後すぐに座学が三時間。魔力を保つための精神訓練が二時間。
 精神訓練については自分の為でもあるが、この国に唯一不足している魔法技術を発展させる為でもあった。
 これらをこなすと、あっという間に昼である。来客に取り合っている暇など全くないのは、彼女もわかっているはずなのに。

 「仕方ないだろう。稽古の時間だし、待たせるのも悪いと思ってさ。前に教えておいたじゃないか」
 「そんなの忘れちゃったわ」

 村長の娘である彼女の態度は、いくら大国の王子が相手とはいえども変わることがない。
 口先ばかりというのは理解していたが、同じことが続けば温厚なウィルであろうとも不満はたまる。
 しかし、口には出さない代わりに溜め息をついた。

 メイドが持ってきてくれたお茶とお菓子を口にしつつ、二人はとりとめのない話をした。
 と言っても、ほとんどジュディの一方通行。話だけに夢中ではなくて、手をしっかりと動かして出された物を口に運んで行く。
 フランコ兵士長との稽古の前に食事を取ったばかりのウィルは適当に相槌を打ちながら、別の意味で感心していた。
 
 だが、彼女の話に長々と付き合う気など、今の彼にはなかった。
 ひとしきり、ジュディは口ばかり動かしていたが、知らず知らずのうちに、態度に出ていたのだろう。彼女を更にイライラさせることとなった。

 「ねえ。私と一緒にいるのはいや?」
 「そんなことないけど……。どうして?」
 「だって、何だか上の空みたいなんだもの」

 言われてウィルは、思わず身体を強張らせてしまった。

 「ああ、色々と考えなきゃならないことが多くてさ。ごめん」
 「ふうん、王子様って大変なのね」

 ジュディが怪しげに思うのも、無理はない。おそらく、こちらの考えは全てお見通しなのだろう。口調は皮肉そのものだった。
 ウィルは、彼女が何を言いたいのかわかったが、無視してしまった。

 「あのさ、せっかく来てくれたのに悪いけど、これから出かけなきゃならないんだ。だから……」
 「ほら、やっぱり!」

 耐えきれなくなったジュディは、とうとう叫んでしまった。その剣幕に、ウィルは思わず目をそらしたが、かえって、彼女の怒りを煽り立てる結果となった。

 「邪魔だって言えばいいじゃない。ハッキリと! あなたって昔っからそうよね。その点は変わってないのに、前から比べたら冷たくなったみたい。あの時の方が良かったわ」
 「別に邪魔なわけじゃない。王子なんかやってると、結構忙しいんだ。予定が詰まってる時だってあるよ」
 「だったら、私も連れて行って」
 「いいけど、来てもつまらないと思うよ。フォーン国へ、外交の件で話をしに行くんだから」
 「……わかったわよ。お望みどおり、私、帰るわ」

 自分では太刀打ち出来ない領域の話をされては、どうしようもない。ジュディは冷めた目をして言った。

 「本当にごめん。今度この埋め合わせはするからさ」
 「絶対よ。約束だからね!」

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