長編1

第二章:王子の決意
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 十五年の時が過ぎた。


 レイドック城の王子であるウィルは、暗い気持ちで城内を歩いていた。
 彼だけでなく、レイドック城や城下町全体が重々しい空気に包まれていた。
 それもそのはず。十歳になったばかりの王女セーラが、病気でこの世を去ってしまったのだ。


 ウィルが幼い頃から父レイドック王は、人々の生活を脅かす魔王ムドー討伐を視野に入れており、対策を練る日々が続いていた。
 そのため、近隣諸国からの問い合わせが多く、公務に大忙しだった。

 母シェーラ王妃も、毎日のように訪れる各国の要人の接待に忙しく、子供にかまう時間は限られていた。
 従って、彼は教育係のグラン爺を相手に育ってきたのだ。

 幼い子供にとって親と過ごす時間が短いというのは、辛く寂しいものだ。
 しかし、不満を口にしたことがないウィルは、グランを実の祖父のように慕っていて、「じいや、じいや」と、いつもグランの後を追いかけていた。
 妹のセーラが生まれてからは、忙しい母親に代わり面倒を見て、周りの者を感心させていた。

 『ウィル様とセーラ様は、本当に仲がよろしいんですね』
 『無理もありませんわね。王様と王妃様はお忙しくて、いつもご兄妹二人っきり。お気の毒ですわ』

 同情する声は数多くあったが、ウィルは自分の境遇が不幸だと思った事など一度もなかった。
 しかし、それはセーラの存在が重要だったのだと、このような状態になり改めて認識した。


 ――――……

 『はい、お兄ちゃん。出来たよ。さあ、どうぞ召し上がれ』
 『どれどれ、もぐもぐ……。うん、とってもおいしいよ。セーラはお料理が上手なんだね』
 『ほんとう? それじゃあ私、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるね!』
 『ええ!? それは、うーん……。じゃあ、うんときれいになったらね』
 『まあまあ、セーラ様ったら。お手々を泥で汚されて。あら、王様が大切になさっているお皿まで』
 
 背後から、突然声がした。

 二人が振り返ると、用事を済ませてきたメイドが、泥だらけのセーラと散らかり放題の台所に驚きを隠せないでいた。
 何しろセーラが使った皿は国宝級の代物で、よほどの客人にしか使用を許されていないのだ。

 しかし、まだ幼いセーラがわかるはずもなく、無邪気な笑顔を振りまくばかり。

 『だって、お兄ちゃんにスープを作ってあげてたんだもん』
 『ごめんごめん。後で僕が洗っておくよ』
 『そんなことをやっていただくわけにはまいりませんわ。さあさあ。そろそろ夕食の準備をしなければなりませんので、お二人とも中庭で遊んできて下さいな』
 
 さすがにメイドは、文句を一つも言わなかった。それどころか、優しい顔をしながら二人に言った。

 『うん。行こうお兄ちゃん。お花がとってもきれいよ。お父様みたいな冠、作ってあげるね』

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