社長
□コーヒー
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「権兵衛ちゃん、コーヒーいれて貰えるかな?」
あと少し時計の長い針が倒れれば昼休みというときに、権兵衛ちゃんにコーヒーを頼んだ。優秀な彼女のことだ、もう午前にすべき仕事は済んでいて、今日何を食べようかな〜なんて考えていたに違いない。
今日は重ちゃんたちがハナタレの収録で、13時過ぎまで帰ってこないはず。つまり、ちょっとしたチャンスというわけ。重ちゃんから奪う、なんてつもりは無いよ?だって、そもそも重ちゃんのものだと思ってないから……ねぇ?
コンコンと、君が来た知らせが耳に響く。
「はーい、どうぞー」
部屋に入るよう促すと、失礼しますと丁寧に断ってから、権兵衛が現れた。
「コーヒーお持ちしました。」
「ん、ありがとうね〜」
デスクに置かれたマグカップ。これだって、君の好みをリサーチして使ってるもの。「社長可愛い」なーんて思われたらラッキー。溢れそうになる不純な笑いを堪えていると、きみの可愛い声。
「今日は砂糖、入れてませんよ」
「あはは、この前は甘かったからなぁ。権兵衛ちゃんって甘党でしょう?」
きみが甘党なら、僕もきみに合わせるために、努力したっていいんだ。
「そうでも無いんですよ〜ほんとに。砂糖が無くっても飲めますし。」
「じゃあこの前はなんであんなにいっぱい砂糖入ってたの〜?」
「いやー、どうでしょうで甘党キャラ発揮してらっしゃるので、てっきり本当に好きなのかなーって。」
どうでしょう見ててくれたんだ、なんてちょっと嬉しくなったり、僕を思って甘くしてくれてたと聞いて恥ずかしくなったり、……なんだか苛めたくなったり。
「え〜、生き地獄ってテロップ出てたじゃないの。さてはわざと意地悪したの?」
「違いますよー!」
「ほんとかな〜」
「ほんとですってば〜」
きみが本当だと言うなら、僕はそれを信じるよ?たとえ、絶対に嘘だという確証があっても、権兵衛の言葉が僕の全て。
権兵衛ちゃんとおだやかに笑い合う。たまにある、こういう時間がなんだかもどかしい。きっと、安心してくれてて、無防備なんだろうけど、僕はきみに、「1人の男」として、見てほしいんだ。
コンコン
「どーぞー」
まったく、誰だよ空気読まずに。今いいとこなんだから邪魔をするなよ。
なんて余裕でいられたのもドアが開ききるまで。
重厚な扉を開けて入ってきたのは、僕のライバルにして権兵衛ちゃんと付き合ってる、重ちゃん。
「お〜、重ちゃんかぁおかえり〜。」
重ちゃんの登場に驚いた権兵衛ちゃんが、向こうをむいてるのをいいことに、重ちゃんに威嚇のように睨みをきかせてしまう。きみが悪いんだよ、重ちゃん?
「……ありがとうございます。あの、ちょっと権兵衛借りて良いですか。」
そんな顔しないで。権兵衛ちゃんが怖がるじゃないの。きみが普段恐れてる、社長である僕に要求するだなんて、偉くなったねぇ。
ふう……仕方ない、僕は権兵衛ちゃんを困らせるようなことはしたくないんだ。重ちゃんみたいなガキじゃないからね。
「うん、もう用も済んだし、(今日は)いいよ。ありがとね、権兵衛ちゃん。」
僕が権兵衛ちゃんの名前を呼ぶ度に、眉がピクッとあがるきみ。実に愉快だ。
「あ、いえ、またいつでも言って下さ「それじゃあ失礼しますね。」
せっかく権兵衛ちゃんが可愛いこと言おうとしてたってのに、重ちゃんは権兵衛ちゃんの腕を掴むと、あっという間に出ていってしまった。
残念、けど今日のところは、権兵衛ちゃんとのランチは諦めるよ。
「大泉くん、飯でも行こうか。」
「やったー!ミスターの奢りだー!」
「ちょっと社長、僕も連れてって下さい!」
「俺、カレー食いたいです!」
「……車、運転しますよ?」
「よーし、重ちゃんがイチャイチャから戻ってくる前に行っちゃお〜」
「「「「は?」」」」
今日だけは、ね。
 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄
可愛い大人な社長と、
何にも知らないメンバー4人。
シゲはどうやっても
社長に敵わないと知ってて、
けど必死にぶつかってたら
可愛いなぁ……なんて。
2011/5/25/0:47