オートフォーカス
□そして二週間後
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「リナ?」
「ああ、ごめんアニー。ぼーっとしてた」
アニーに声をかけられ、あちこちをさ迷っていた視線を目前の白い紙に固定させる。そこには名前やクラス等を書く欄があり、一番上にデカデカと書かれた三文字がその役目を如実に語っている。
入部届、と。
「やっぱり、弓道続けないの?」
「んー……そりゃあやりたい気はあったけど、"あの人"いるんじゃなあ……」
私は元々、弓道部に入るつもりだった。中学でやってて成績もそこそこ良かったし、お陰でアニーとも知り合えた訳だし。それにこのカレギア学園の弓道部は、結構全国出場してるし。
だがしかし、"あの人"がいることを入学して部活見学した時に漸く知って、私は入部を断念したのだった。ちゃんちゃん。
まあ別にいいんだ、弓道するなら近所の道場で出来るし。
問題は部活。
この学園は何かしらの部活に入らなければならないらしく、しかし弓道一本だった私に弓道以外の選択肢がある訳もなく。
こうして悩んでいる訳です、はい。
「そんなにいやなのね、その人の事」
「嫌いじゃないんだけどね。まあ、アニーは気にせず弓道行けばいいよ。でもあの人には気をつけてね。いざとなったら撃って良いから」
私の発言に苦笑して、じゃあ届出してくるね、とアニーは席を立った。これで教室の中は私だけになった――と思ったら、扉から出て行った筈のアニーが顔を覗かせている。
「リナ。担任の先生、呼んでますよ」
「げ」
嫌々ながら席を立つ。
私が廊下に出ると、ぱたぱたと去っていくアニーと入れ替わりに、担任がこちらに近付いてきた。
ああくそ、もうちょっとくらい待ってくれ。部活まだ決まってないよ。大体この学園は部活数が多すぎる――言いたい事は山程あったが口には出さない。そんな事をすれば、逆にこてんぱんにされるだけだと、入学二週間目にして私は十分に理解している。
「……何の用ですか、先生」
「そんなの、言わなくてもわかってるんじゃないかな?」
わかっとるわボケエ。
建前じゃい。
「部活なら決まってないです」
「だと思ったよ」
(こやつ……)
「で、決めてきてあげたんだから感謝してよね」
「え?」
なにそれ、私に選択権無しですか。人権を何だと思ってるんだ。
「文句あるなら自分で決めなよ」
「異論ありませんサレせんせー」