『ひなげしの花束を。』
□第6章
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朝。
「おはよう。」
父と会った。
黒髪をきっちり七三に分け、フレームメガネをかけていた。
母の手作りのフレンチトーストが私の指定席におかれている。
私は席に着き、フレンチトーストにかぶりつく。
朝からフォークやナイフを使って食事なんてしてられない。
「さと。明後日、母さん東京に行くことにした。」
「は?」
父はさも当たり前のように、さらりと言いのけた。
「兄さんが明日東京に来る。それで、泊りがけで行くことになった。」
叔父さんが!?
父の兄。
夜録(やろく)叔父さんは、外国で仕事をしていて、いつ日本に帰ってくるかわからない状態だった。
夜録叔父さんはとても気さくで、頭がよくて、私の憧れの人だ。
そんな夜録叔父さんと会うなんてずるすぎる!
「私も行きたい!」
「だめだ。学校がある。」
「休む!」
「行きなさい。」
「でも・・・・。」
父の目は揺るがなかった。
「学校に行きなさい。でだ、そしたら家に一人で置いておくことになるが、それはちょっと危ないと考えて、どこかの宿舎を借りることにした。」
「何それ!?」
私一人くらい、家で暮らせるし、家事も料理もできるのに!
「・・・宿舎の名前はコクリコ壮。話は昨日のうちにつけておいた。鞄に二日分の洋服を入れておきなさい。」
私意見は聞かないの!?
私はいら立っていた。
「この宿舎に決めた理由は、一昨日行った旅館の女将さんと相談した。史郎君・・・だっけ?同級生の子のお母様だ。」
え?
水沼君のお母さん?
「コクリコ壮には女性しかいないそうだから、安心しろ。」
「え、でも。」
でも、
叔父さんには会えないんでしょ?
いつ会えるかわからないのに。
これを逃したら、叔父さんに会えず4年も経っているのに・・・。
「さ、学校に行ってきなさい。遅れるわよ。」
母がいつの間にか私の髪をいじっていた。
「悪いが、急でな。この落とし前は必ずする。」
父がそういって私の頭を撫でた。
ちぇ、
ここの中で舌打ちして、私は足音を立てながら家を出た。
家を出る直前に鏡を覗くと、三つ編みを一つにしてまとめられていた。
・・・・悪くない。
私は走って下り坂を駆け下りた。