A Novel

□影が2つ
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「よお、久しぶりだな慎」


煙草を吹かしながら文七さんは今の部長の兄、慎さんの写真に向かって話しかけた。僕は文七さんと慎さんの関係をあまり深くは知らない、知らないが慎さんの強さは化物並みだったということと、そんな慎さんに文七さんが勝ったことがあるということは知っていた。


「どうだ、お前のいた柔拳部は…」


シンと静まりかえった広い道場に響く声、まるで僕の存在など忘れてしまっているかのように文七さんは慎さんとしゃべっている。

僕には見えないが、きっと彼には見えているんだ…慎さんが…


「おい、高柳」

「は、はい!」

ビックリした、僕の存在なんて忘れているかと思っていた。

「お前は獣か…」


ゴツンと重たい拳が頭に降ってきた、僕はそれを避けることができず直撃…


「痛ぁ!!」

ダブルインパクトの異名をもつだけあって文七さんの拳は鉄の板をも砕く程の威力、僕だから頭蓋骨が砕けずにすんだが、やっぱり痛みは半端ない。
僕は頭を抱えたまましゃがみこんだ。

文七さんは文七さんで、おいおい避けろよとため息をついている。


「何するんですか!」

「お前が獲物狙うような殺気を放ってるからだろ…」
「えっ……?ぐはっ!」


驚いて顔を上げたところに留めのデコピン。
何度も言うようだけど、ダブルインパクトの異名をもつ文七さん…、こんなデコピンを受けたら脳が飛ぶ。

「文七さん、本当に頭とんじゃいますよ…」

「さっきの獣じみた殺気はどこにいったんだ、お坊っちゃま」


二十歳のくせに高校生をしている文七さんの手は毛深い、そんな手で頭をぐりぐりと撫でられた。


「やっぱり、お前は光臣とは違うな…」

一瞬僕を撫でる手に力が入ったのがわかる。

僕はいつも思う、この人はなぜ慎さんを慕いながら柔拳部を捨て執行部に行ったのか。
なぜ兄さんに従うのか。

けどそう考える僕はもっとおかしいかもしれない、わざわざ兄さんと対立する部に入部するなんて。



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