A Novel
□RKRN2
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うちの殿は本当に戦が好きだな…雑渡は怒号飛び交う戦場を眺めながら暢気に雑炊を啜る。いよいよ敵軍が撤退を始める、そんな時に部下の高坂が尊奈門からの伝言を聞いて慌てて飛んできた。
「組頭!」
「声がデカイぞ陣左」
「申し訳ありません。しかし…」
高坂は苦々しい表情で雑渡の耳元までくると信じがたい報告をし始めた。
*若い華5
タソガレドキ城には殿が忍軍に特別にあてがった監禁室がある。ここで主に行われる事は拷問の類いが殆どで、薄暗い牢屋のような部屋に手枷、足枷、拷問に使うありとあらゆる道具がそろっている。
雑渡が組頭になってからは「悪趣味」という理由で使われる事が殆どなかったが、使わざるおえない場合も何度かあった。
そして今回…
「まさか君にこの部屋を使う事になるとはね…」
手に持ったカギをじゃらじゃら鳴らしながら雑渡は目の前に吊し上げられている忍に目をやる。
この監禁室…出入りできるのは組頭の雑渡のみ、その理由は部下が傍にいると拷問の手が緩むから…。もしくは拷問を止められるから。
「ねー…何で殿の命を狙ったの?君はそんな器じゃないだろうに」
吊し上げられた忍は何も喋らない。両手を一まとめに括られ、天井の吊り具から縄でぶら下がる形になっている。
「ねー伊作君…」
名前を呼ぶと忍はビクリと肩を揺らして顔を上げた。
「雑渡さん」
開かれた虚ろな目には怯えの色が見て取れる。雑渡はその顔をジッと射るように見つめ伊作の前髪を掴み上げた。
「うっ…」
「伊作君、私は君を拷問したくないんだ…なぜ殿の命を狙ったのか言いなさい」
優しく諭すも伊作は雑渡の名前を呼んだきり黙りを決め込んでいる。しかし忍術学園とは敵対したくないタソガレドキ忍軍側からしたら早く理由を言ってもらわないと困るのだ。
私情を挟んでないと言えば嘘になる。雑渡は伊作を含め保健委員会の面々をえらく気に入っている。特に伊作には怪我を治療してもらった恩もあるので拷問などしたくない。
「若いのに拷問なんか受けるもんじゃないのは君も分かるね…」
「…………」
「あ、今言えないなら話を変えよう。骨折は治った?」
落ち着こう、一度まったく関係の無い話をして伊作君の警戒心を溶かなくては…。忍者の組頭らしからぬ気を使いながら雑渡は伊作の前髪を離し綺麗に整えてやった。
「骨折は治りました…」
「そう」
「先生が…タソガレドキのお医者様の処置がよかったから治りが早かったんじゃないか…と言ってました」
伊作は少しホッとしながらそう話した。それでも心に余裕は持たせない…なぜなら相手は自分の知る忍の中で一番強く、そして一番心の読めない相手だから。
暫くそうして他愛の無い話しを続けた雑渡はフーッと長く息を吐くと再び伊作にあの質問をした。
「城に君を引き入れてしまったのはタソガレドキ城側の落ち度だ、確かに毒味役が先日死んでしまって食事の時に困っていたしね」
「…………」
「君は医術も心得ているから皆君がただの毒味役だと疑わなかっただろうし…でも顔見知りがいたらすぐにバレるよ」
何故そんなリスクをおってまで殿を殺そうとしたのか…雑渡には分からなかった。誰かさんのおかげで忍術学園の善法寺伊作はタソガレドキ忍軍でも有名だ。
「伊作君…今なら…」
それ以上は言わなかった。察して欲しかった…伊作を傷つけなくない自分の心情を。
しかし、いつまで待っても伊作は何も語ろうとはしなかった。
つづく