A Novel
□影が2つ
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夕方の校舎は嫌いだ、だから僕は授業が終わると道場に直行して鍛練に明け暮れる。男臭いというか汗臭いカビた匂いのする此処は、僕が日常を考えずに済む唯一の場所な気がして好きだった。
でも今は…
前程好きではないのだ
別に嫌いになったわけじゃない、だから今だってこうして自分の技を磨いている。
「先輩、私お姉ちゃんの様子見に行ってきますからこれで、お疲れさまでした」
笑顔で僕に別れを告げるアヤちゃんは僕よりこの場所が嫌いかもしれない。
「うん、お疲れ…」
彼女の姉は、この部の部長を務めていた。
強くて芯のある人、マヤさん、僕の兄の大切な人。
そんな部長がある日突然兄に呼び出され、そして死人とかして帰ってきた、体はボロボロで目には光がなくいつもの部長の面影は感じられなかった。
そんな部長を目の前にしてもアヤちゃんは気丈に振る舞っていた。
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外はだいぶ暗くなってしまっていた。一通り鍛練し終えた僕は汗臭い体をシャワーで流し、道場の隅に座り込んで閑散とした空間をただ眺めていた。
ガラガラ
この時間に人が来るなんて珍しい事もあるものだ。
僕はまた師範か部の関係者だろうと開いた戸に目を移した。
「よう、もう上がりか〜」
「文七さん!」
暗闇から現れたその人に僕は正直に驚いた、この人は僕やアヤちゃんより数倍この場所が嫌いなはずだから。
「相変わらず男臭い場所だなぁ…ここは…」
そう言うと彼は自分の吸っていた煙草をポイと捨て、素足のまま火を消した。
道場の床が焼けて少し焦げ臭い。
「珍しいですね、どうしたんですか?」
「しいて言うなら、執行部としての仕事だよ…」
口に新しい煙草をくわえ直した文七さんは僕の横を通り過ぎて歴代の部長の写真が飾られている梁(はり)の前に立った。
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