青い空と白い雲
□7・春の気配
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試合開始を告げるサイレンが鳴り響く。
―― また、この夢だ。――
もう、立つことの出来なあの場所。
自分を置いて去ってゆく友の背中を動けずに見送る。
絶望感が、圭を包み込んだ。
手から野球ボールが音もなく、“こぼれ落ちる”はずだった。
これが、いつもの夢なら。
しかし、ボールは落ちずに圭の手の中に残る。
圭が、ボールを強く握ぎっていたからだ。
『 あたしは、もう絶望なんてモノに負けない。彼らと同じ場所に行けなくても。あたしはこの景色なんて怖くない。』
出なかったはずの声が、まるで先程の事が嘘のように力強く辺りに響く。
絡み付くような暗闇は、潮が引くかの如く消え去り、代わりに真っ青な青空とグランドが現れる。
マウンドには、バッテリーを組む少年達がいた。
―― もう、あそこはあたしの場所じゃない。でも…。――
『巧ー。豪―。頑張って!!。』
あたしは、ココから彼らを支える事が出来る。
追い付けなくても、あたしが前に進む限り
彼らと一緒に居られる。
圭は満足げ微笑むと瞼を開けた。
長い悪夢が終わり、新たな夢が始まる。
++ 7・春の気配 ++