式鬼イレギュラー

□式鬼イレギュラー
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 プロローグ/オニハイルノカ






 平安時代になると『鬼』という言葉が、よく使われるようになった。ところが、その姿は詳しく記されていない。絵に描かれ始めたのは、室町時代に入ってからだったという。
 

 とはいえ、実際のところは、どうだか判らない。
 

 二十一世紀である現在に「夏の幽霊特集!」なるテレビ番組があっても、鬼など、妖怪たちが話題に上がることはないのだ。


 だれも見たことがないから、大昔の人が創ったものとされているから。


 が、鬼が漫画やゲームの中に登場することはある。


 今、インターネット上で『青鬼』というホラーゲームが、一部のひとたちの間で人気なのだ。


 このゲームの内容は、だれもいないはずの館に「なにか出る」という噂を聞いた四人の若者が、遊び半分でそこを訪れ、潜んでいた『青鬼』から逃げる。最後には、建物の外に脱出するというもの。いわゆる脱出ゲームである。


 クリアするには、多くの謎解きをしなければならない。意外と難しく、楽しめるので、暇つぶしにはちょうどいいものとなっている。


 そして、ここにも、噂のホラーゲームをやろうとしている少女がいた。


 少女は、ちりめんじゃこを口に運ぶ手を休めることなく動かしている。目線は、真っすぐにノートパソコンなの画面。


 きれいな漆黒で、澄んだ瞳は、蛇が獲物を睨む目のように鋭い。


 「うーん」と唸りながらも、少女はすでに意を決しているようだ。


「これ、生放送でやったら、いっぱい人が来るんだよねぇ。コミュ人数増やすには、やるしかないでしょ?」


 吐き出す言葉が、虚しく独り言になっていることに気付かないまま、少女は口元を笑みに変える。


 それと同時に、少女の手に握られているマウスは、『青鬼』のダウンロードボタンへと移動させられていく。


「ほんじゃ、ポチッとな♪ なんかテンション上がってきた……!」 


 ダウンロードが始められ、一分後には、『完了』の文字が表示された。あとは、アプリケーションを起動させるだけ。


 少女の目はキラキラと輝き、期待で溢れているのがわかる。


 だから、ためらいもなく進んでいく。


 未来に何が起ころうと関係なくて、自分の世界を守りながら歩いて行くだけ。


 今までそうしてきた。だから、これからも変わらない。


 ――はずだった。


 そう時間が経たないうちに、少女の日常は、変えられてしまうことになる。


 これから、自分の知らない世界へと巻き込まれていくのだ。
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