式鬼イレギュラー
□式鬼イレギュラー
1ページ/2ページ
プロローグ/オニハイルノカ
平安時代になると『鬼』という言葉が、よく使われるようになった。ところが、その姿は詳しく記されていない。絵に描かれ始めたのは、室町時代に入ってからだったという。
とはいえ、実際のところは、どうだか判らない。
二十一世紀である現在に「夏の幽霊特集!」なるテレビ番組があっても、鬼など、妖怪たちが話題に上がることはないのだ。
だれも見たことがないから、大昔の人が創ったものとされているから。
が、鬼が漫画やゲームの中に登場することはある。
今、インターネット上で『青鬼』というホラーゲームが、一部のひとたちの間で人気なのだ。
このゲームの内容は、だれもいないはずの館に「なにか出る」という噂を聞いた四人の若者が、遊び半分でそこを訪れ、潜んでいた『青鬼』から逃げる。最後には、建物の外に脱出するというもの。いわゆる脱出ゲームである。
クリアするには、多くの謎解きをしなければならない。意外と難しく、楽しめるので、暇つぶしにはちょうどいいものとなっている。
そして、ここにも、噂のホラーゲームをやろうとしている少女がいた。
少女は、ちりめんじゃこを口に運ぶ手を休めることなく動かしている。目線は、真っすぐにノートパソコンなの画面。
きれいな漆黒で、澄んだ瞳は、蛇が獲物を睨む目のように鋭い。
「うーん」と唸りながらも、少女はすでに意を決しているようだ。
「これ、生放送でやったら、いっぱい人が来るんだよねぇ。コミュ人数増やすには、やるしかないでしょ?」
吐き出す言葉が、虚しく独り言になっていることに気付かないまま、少女は口元を笑みに変える。
それと同時に、少女の手に握られているマウスは、『青鬼』のダウンロードボタンへと移動させられていく。
「ほんじゃ、ポチッとな♪ なんかテンション上がってきた……!」
ダウンロードが始められ、一分後には、『完了』の文字が表示された。あとは、アプリケーションを起動させるだけ。
少女の目はキラキラと輝き、期待で溢れているのがわかる。
だから、ためらいもなく進んでいく。
未来に何が起ころうと関係なくて、自分の世界を守りながら歩いて行くだけ。
今までそうしてきた。だから、これからも変わらない。
――はずだった。
そう時間が経たないうちに、少女の日常は、変えられてしまうことになる。
これから、自分の知らない世界へと巻き込まれていくのだ。