OKADA'scafe


□マウンテンマニア
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四季の中でも色とりどりの色彩が映える季節になった。
夏の暑さを乗り越えた木々や草花は、最後の力を振り絞る様に鮮やかに彩る。
書店で目についた、紅葉の山岳特集の雑誌を衝動買いした私は、食事の終わったテーブルで早速広げてみた。
私の隣で興味深く覗き見する准一は、その美しさを頬杖を付きながらうっとりと語りだした。


『標高によって咲いてる花も違うけど、見上げるのと見下ろすのは全然違うから。』

雑誌を反対側からペラペラと巡り、この山知ってるだのこの山に登った時は寒かったなど体験談を話す。

『汗かいた後で冷えるからさ、スゲー寒くなんねん……で、飲むレトルト味噌汁の旨い事って』

『やっぱ斜面やからかな、足首が痛くなるねん、寝言で魘されてるってオータさんが……(笑)』

オータさんと云うのは、何時も一緒に山を登っている友達の事。
此処まで山の話を語り出したら、その後は決まってそのオータさんが何れだけ山に詳しいか説明してくれる。


『……で、オータさんはさ……』

「もういい」

『ん?』

「オータさんがスゴいのも、山が素敵なのも分かった。」

『あ……そう?』

ちょっと残念そうな准一、まだ話したかったのかも。
だってずっと山とオータさんの事ばっかり……
私は准一の顔を見ながら、良いことを思い付いた。

「私も登る。」

『は?』

「登るから、山。」

『山って……聞いてた?俺の話』

「勿論。だから、登るの。」

『……』

「一緒に登るから」

『えっ?!俺と?!』

「悪い?」

『……いや、悪いとか悪くないとか……』

「じゃあ、決定」

そうよ、私も始めたらいいのよ!
山ガールって流行ってるし、准一の話にも着いていけるし。

『ほんまに始める?』

「ほんまに始めます」

『二言は無い?』

そんなに念を押したって、怯まないんだから。

「無い……よ?」

『分かった』


准一はにっこりと笑うと、PCを持ち出して、何やら調べものを始めだした。







【マウンテンマニア】




普通素人が“山登り”を始めようとすると、経験者の助言が不可欠になる。
その点私には、その“先生”役はもう側にいて早速ご指導をしていただいている。


『じゃあ、何から行く?』

「何からって、何?」

『んー……例えば、服装とかリュックとか、靴とか……一通り揃えるやろ?』

「うんうん、揃える揃える!」

『俺が何時も買ってるとこのメーカーが此れで……他にもこんなんとか……こんなんとか……』

「 んー…いっぱいあるね」

一台のノートパソコンを見るのに、肩をくっ付けて座る二人。
あこの髪が鼻擽り、准一はくしゃみしたくなるのを堪えた。


『色々あるから、ゆっくり見たら?』

「んー……」


気のない返事なのは、画面に集中している証拠。
准一は黙ってあこが選ぶのを見守った。


「……ダメだぁ」

『なに?』

「やっぱり決められない。」

『うーん……じゃあどうしよ』

「お店、行こうよ。」

『ショップに?』

准一は驚きながら時間を確認した。

「明日、朝イチ……どう?」

『……俺のスケジュール知ってるやろ?』

呆れたように笑う准一は、降参したのか腕を組む。

「決まりっ!」

嬉しくなってあこは隣の准一を包むように抱き付くと、案外准一も嬉しいのか緩んだ頬を隠すように指を口元へ運んだ。
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