創作場(花朔)

□星月夜に
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それは一本の電話から始まった。
「明日みんなで星見祭り行かない?ここんところ全然休みとれてないんでしょ?気晴らしにみんなでぱーっと遊ぼうよ」
声の主は天野銀次、かつては雷帝と言われていた男だ。今は美堂蛮とともにゲットバッカーズとして暮らしている。
電話を取ったマクベスは近くで仕事をしていた筧十兵衛・雨流俊樹・笑師春樹・鏡形而の4人にどうするか聞いてみた。
「星見祭りか。風情があっていいな。」
と十兵衛。
「いいんじゃない、楽しそうだし。」と鏡。
「たまには休息も必要だろうからな。」
と俊樹。
「わい、祭りって大好きや。」と笑師。
「決まりだね。」
そう言うとマクベスは快く二つ返事をした。
「やったー!!じゃあ明日の午後6時にホンキ―トンクで。・・・あっ、それと朔羅だけはその1時間前に来てほしいんだけど・・・」
「朔羅だけ1時間前に?分かりました。伝えておきます。」



そして次の日の午後5時頃
カランカラーン
「こんにちは」
朔羅が扉を開けて店内に入ってきた。
「あっ、朔羅さん。こんにちは。今日はよろしくお願いします。」
ホンキートンクの看板娘二人が声をそろえる。
「朔羅〜!!ありがとう!!!みんなもう来てるから早速お願いしていいかな?」
「もちろんです。浴衣もしっかり持ってきましたから、任せてください。」
朔羅を1時間前に呼んだ理由。それは星見祭りに行く女性陣に浴衣を着付けてもらうためだった。銀次は着付けだけのつもりだったが、浴衣を持っていない人が多いと話したところ、朔羅は自分はたくさん持っていますから、とわざわざ浴衣を持ってきてくれたのだった。
「じゃあ、今から着替えるから男どもが来ても絶対奥には入れないでよ!」卑弥呼が銀次に釘を刺す。それから女性陣は楽しげに会話しながら奥に消えていった。


女性陣が奥へ入って30分程たったころ、カランカラーンと音がして、ホンキートンクの扉が開く。煙草をくわえた美堂蛮を先頭に、男たちが店内に入ってくる。
「おぅ、銀次。朔羅たちは?」
「30分くらい前に着替え始めたよ。あっ、みんな絶対覗かないでね。」
銀次が半ば冗談、半ば本気で言う。
銀次自身はTシャツにジーンズ、蛮もYシャツにジーンズという普段着だったが、他のメンバーは全員浴衣である。
「みんな早く出てこないかなぁ…」待ちきれないという風にマクベスは呟く。
「みなはん、どんな浴衣着はるんやろ。楽しみでんなぁ」笑師も頷く。
「でもさ、みんな可愛いと思うけど、やっぱ1番似合うのは朔羅なんだろうねvv」
鏡が言う。
「鏡貴様、不埒なことを考えているのではないだろうな!!」
十兵衛と俊樹が鏡を睨みつける。
「十兵衛、俊樹、そんなに声を荒げては駄目だよ。」
花月は二人をなだめるが、その目は全然笑っていない。むしろ、二人よりも鏡をきつく睨み、“朔羅に何かしたらただじゃおかない”というオーラを醸し出していた。
しかし・・・“朔羅が1番似合う”この3人も含め、それは内心誰もが思っていた。大和撫子という言葉がぴったりの朔羅には浴衣はさぞ似合うことだろう。みんな朔羅の浴衣姿を見に来たといっても過言ではない。
「おまたせ〜vv」
男性陣がそんなことを思っていると、奥から着替え終えた女性陣がきゃあきゃあとはしゃぎながら戻ってきた。
「うっわー、みんな可愛いなぁ。よく似合ってるよ。」銀次が言うと他の男性陣もうんうんと頷く。
「ホント!?ありがと、銀ちゃん!!」
ヘヴンをはじめ、女性陣は照れながらも褒められて嬉しそうだ。
「ん?だが、朔羅の姿だけ見当たらないな、どうかしたのか?」
俊樹があたりを見渡し、不思議そうに言う。
そう、浴衣で現れたのはヘヴン・卑弥呼・夏美・レナの4人だけ。肝心の朔羅がいない。「おい、朔羅はどうしたんだよ?」
蛮が卑弥呼に尋ねる。
「あれ、ホントだ。まだ奥にいるのかな?」卑弥呼もそういえば、という風にあたりを見回す。その時、
「みなさん、お待たせしてしまってすみません。片付けに手間取ってしまって・・・」
と凛としたソプラノ調の声が店内に響いた。みんなが一斉に声のした方を見る。特に男性陣は期待に目を輝かせて。しかし、その期待の目は次の瞬間驚きの目に変わる。そこには朔羅が立っていた・・・浴衣ではなく、普段着で。
「「「さ、朔羅????」」」
その場にいた全員が頭に疑問符をつけて叫ぶ。
「!?姉者、その格好は一体・・・?どうして浴衣を着ていないんだ?」
十兵衛がみんなの気持ちを代弁する。
「あの、これは、その・・・、言っても笑いませんか?」朔羅がおずおずと尋ねる。
「何か理由があるんだね?言ってみて?」
花月が優しく促す。
「はい・・・、実は自分の分の浴衣無くなっちゃったんです・・・・」恥ずかしそうに俯きながら朔羅は答える。
「「「え?」」」またしてもみんなの頭に疑問符が付く。
「浴衣5着あると思ってたんですけど、4着しかなかったみたいで、皆さんに貸したら自分の着る分が無くなってしまったんです。だから・・・」
「ぷっ、あははははは」
「何やそれ^^」
「笑ってはいけないとは思うが・・・すまん、我慢できん」
「くっくっくっく・・・、そんなドジするやつがいるとはな」
「そーいうちょっとドジなとこが朔羅らしいよねvv」
男性陣は多種多様な表現をして笑っている。
「んもぅ、だから笑わないでって言ったじゃないですかぁ。花月様まで・・・////」朔羅はさらに俯いて赤くなった。
一方で、笑っている男性陣とは対照的に浴衣を貸してもらった女性陣はどうしようかとおろおろしていた。
「朔羅ちゃん、ごめん。あたしたちのせいで・・・」
「私たちついはしゃいじゃって、自分のことしか考えてませんでした。」
「朔羅、やっぱあたし浴衣はいいからこの浴衣着て?」
卑弥呼がそう言うと、朔羅は顔をぱっと上げ、頭を大きく振って言った。
「いいえ、その浴衣は卑弥呼さんが着ていてください。だって、こんなに似合っているんですから。ヘヴンさんたちも気になさらないで下さいね。私、和服は昔よく着ていましたから、浴衣もたくさん着たことがあるんです。だから、今日は是非みなさんに着てもらいたくって。それに、普段着でも星見祭りには行けますしねv」
いつものふんわりとした笑顔でそう言われてはもう誰も反論などできない。男性陣は“朔羅の浴衣姿見たかったなぁ”と思いつつも、周りに対してどんな時も優しい朔羅にまた一段と惹かれるのだった。
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