創作場(花朔)

□女神と堕天使・4〜闇さえ包む君の腕〜
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“カヅっちゃん、本気だ…。カヅ ッちゃんの本気モードいつぶりだっけ…?”
一人称が「僕」から「俺」に変わっていることで容易に彼の怒りの強さが分かる。
「くっ、やっぱテメェはただじゃ殺せねぇみてぇだな。」
最後の一人がそう言って、無造作に立てかけてあった鉄の棒を手に取る。
「そんなものを使わないと勝てないのか。つくづく可哀そうなヤツだな。」
「ほざけっ!」
花月にむかって凶器を振り下ろす。花月はそれを軽くよけた。
はずだった。前に集中していた花月は後ろで立ちあがった生徒に気付かなかったのだ。
右半身を掴まれる。気付いたとき、逃げるにはもう遅すぎた。反射的に左腕で頭を守る。
ガゴッ
鈍い音が倉庫全体に響いた。
「――っ…」
崩れかけそうになったが、半身を掴まれているため、それもできない。左腕だけがだらんと下がる。完全に折れた方がマシだった。
指先に多少の力は入るが、それが激痛を引き起こしているのは誰よりも自分自身が分かっていた。痛みに顔をしかめる。
「さっきまでの威勢の良さはどうしたんだよ?なぁ!?」
花月に倒された他の5人もすでに立ち上がっており、7人に囲まれる。
「さっきはよくもやってくれたな、このオカマ野郎が!」
「たっぷり痛い目見してやるからな?」連続で腹を殴られる。
「こんなんじゃ可愛い顔が台無しだな、お嬢さん!!」続けて顔も殴られた。
殴られどころが悪かったのだろう、口の中に鉄の味が広がっていく。
「ケッ、まだまだこんなもんじゃ足りねぇって顔してやがるな。」
殴られた瞬間に苦しそうな声を上げるものの、それ以外は全く動じていない素振りを見せる花月に7人は苛立っていた。
花月はというと、やられているとは思えないほど余裕な顔をして7人を見ていた。いや、正確に言えば黒学の7人を見ていたわけではない。その後ろにいる銀次を見ていたのだ。
“カヅっちゃん、俺のこと、ずっと見てる…?”
ぼんやりとした意識の中でそう思う。花月の強い眼差しは自分に何かを伝えたい証拠のように思える。じっと眼を凝らして見ていると、花月の口が微かに動く。何か言っている。
“に”…“げ”・・“ろ”・・・・
…逃げろ!?花月一人置いて逃げろと言うのか。確かに、今7人は完全に花月のことに集中していて銀次のことは頭にない。しかも、銀次はちょうど7人の背中側にあたる位置にいるので、逃げようと思えば何とか逃げれるだろう。しかし、自分を助けに来た彼を置いて一人逃げるなどできるはずがない。銀次が戸惑っていると、花月の表情がフッと和らいだ。
“心配すんな。俺を誰だと思ってるんだ?”というような彼らしい表情だった。銀次はそれを見た瞬間に覚悟を決めた。ふらつく体を支えて立ち上がる。
「カヅっちゃん、俺、絶対助けを呼んでくるからっ・・・!!」
よろめきながらもできる限りの全速力で走る。7人がそれに気付いたのはすでに銀次が出口近くまで辿り着いたときだった。
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