「うふふふふ…」 ミクさんが本日3回目の気持ち悪い笑い声を発した。 仏の顔も三度まで。 さすがに耐えられなくなった俺は溜息をついて、リビングのソファで寝転がる彼女の元へ後ろから歩み寄る。 俺が近づくのには気づきもせず、ミクさんは恍惚とした表情で"それ"を見つめたまま。 どんだけ夢中なんだよ。 ミクさんが顔をにやけさせながらページをめくったのと同時位に。 「もう良いでしょミクさん!」 「わああ!レ、レンくん!?」 俺はガバッと彼女の持っていた物を奪い取った。 驚いた声を上げたミクさんは、目を丸くして俺を見つめる。 しかしすぐに頬を膨らませて不機嫌な顔になった。 「ちょっとーまだ途中なんですけどー!」 「ページめくるのが遅すぎなんですよ!」 「あらら見てたの?」 「そんな気持ち悪い声出されてたら嫌でも見ちゃいます。」 「ひっどーい!だってだって!」 レンくんがあまりにも可愛いから! あんたのが百倍可愛いわ、とツッコミたくなるような満面の笑みで彼女はそう言い放つ。 俺は恥ずかしいような逃げだしたいような気持ちになりながら、また溜息を吐いた。 そう、ミクさんが見てるのは、俺とリンの写真集。 この間撮影したものが、やっと本になったのだ。 貰った見本誌を家に持って帰ったら即座に奪われ、これだ。 いや嬉しいっちゃ嬉しいけど…なんていうか…うん。 そんなにニヤニヤして見られると落ち着かない。 元から歌と違って撮影の仕事は苦手だし。 ましてやミクさんになんて、見せられない。 「本当もう、そんなに見られると恥ずかしいです…勘弁して下さい…」 「えー大丈夫だよ!よく撮れてるよ!」 ひょいっと俺の腕から写真集を取り上げて、上機嫌に胸に抱くミクさん。 あまりに嬉しそうにそれを抱きしめるから、恥ずかしさとは別の感情が生まれてきてしまう。 …あなた、そんな顔して俺のこと見たことないですよね?何でそんな頬赤くしてるんですか? 表紙の俺がミクさんの腕の中で勝ち誇ったように笑っているように見える、なんて大人げないな俺。 とか色々考えていたら、なんだかイライラしてきた。 「もうっミクさん!俺の顔なんて見慣れてるじゃないですか!」 「違うよ!写真のレンくんだからこそいっっぱい見てたいの!。」 "だからこそ"。 きちんとした衣装を着て、綺麗に加工された写真の俺の方が良い 、と? いやいや馬鹿か俺。どっちも俺に変わりはないってば。 どうしてこんなに、もやもやするんだろう。 あ。なんか。 (嫌、だな。) |