かぷ

□変わらない恋心
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本当にこの男はヘタレなのだ。
馬鹿で天然でへらへらしてて、ちっとも男らしくなんてない。


「めーちゃん、めーちゃん」


奴は今日もにへら、と笑って私の後ろに立つ。
肩に柔らかく置かれた手もきっと無意識だろうから、本当になんていうか、気持ち悪い。


「何よ、バカイトさん」
「んー?なんか忙しそうだから手伝ってあげよっかなって。」
「いいわよ別に、大丈夫。」


そう軽く受け流しながらまた手元を動かして洗い物を再開する。

こいつにやらせたら逆に洗い物が増えそうだわ。

それでもカイトは私の横に立ってスポンジを手に取った。


「って言っても大変そうじゃん。ほら、貸して?」


そう柔らかく笑ってみせる彼に不覚にもときめいてしまう自分がいる。
なんでこう、こいつはこんなに身のこなしがスマートなのだろう。
王子様気取りの優男キャラなんて、ちっとも好きじゃないのに。
意外にも近い距離に、彼の匂いに、改めて意識しだすと心臓がどきどきする。

これくらいでときめいて、しかもこんな男らしくない奴に!
全く、女子高生か私は。


「ねーカイト。」
「ん?」
「冷凍庫にあったアイス、リンが全部食べてたわよ」
「え…!」


何だか無性に腹が立ったのでつい意地悪なことを言ってしまった。
まあ食べてたのは本当だけど。
涙目になって手をわなわなと震わせるカイトに思わず吹き出しそうになる。
ほんと、こいつ馬鹿だわ。


「ふふふ、カイト凄い涙目!」
「だって!あれ、限定なのに!名前も書いたのに!」
「子供かよ」
「俺のアイス…うう…」


子供のようにうなだれる彼は男らしさの欠片もなくて。
私はそれに無性に安心して、ふふ、と笑いながら柔らかな青い髪を肘で撫でてやった。


「めーちゃん、微妙に痛いそれ。」
「だって手には泡がついてるし」
「まあそうだけどさあ…」


そう言いながらカイトはまだ未練がましく溜め息をつく。
ほら、そんな気を散らしてたらお皿落とすわよ。
そう言おうとした時。
泡まみれの手からするりと持っていたものが抜けた。


がしゃん


「あ……」
「ご、ごめんなさい!」


耳を裂く鋭い音に跳ねる心臓。
焦りと恥ずかしさが胸の中で混ざり合う。
馬鹿、気を散らしてるのは私の方じゃない。

慌てて破片に手を伸ばすと手首を掴まれた。
反射的に顔を上げる。


「危ないから俺が拾う。」
にっこりと笑う彼の目は優しくて、
腕の力は思ったより強くて。
私の手首から頬まで、言いようのない熱さが巡った。


「い、いいわよ別に!私が落としたんだから。」
「でも危ないし。」
「あんたの方が手切っちゃいそうで危なっかしい!私がやる!」
「だめ。」


優しい声音のまま彼は手に力を込める。
振り払おうとしても払えない。
カイトのくせに!
いつもはあんなに私に殴られてるくせに。

なんで、こいつは、


「めーちゃんの指、綺麗なんだから。傷ついたらもったいないよ。」
「………っ!」


天然たらしで、へらへらしてて、なのになんで。


「めーちゃん?」
「な、んでもない。ありがと…」


どきどきするな私の心臓、赤くなるな私の頬。
こんな馬鹿に、ありえない!


(かっこいい、とか)


思うわけないもの!


「わ、私、買い物行ってくる。」
「え?俺も行こうか?」
「来るな馬鹿!いってきます!」


逃げるように駆け出した。
胸がどきどきしてて、それがどうしようもなく悔しい。
だって、あいつはただのバカイトなのよ!?

(めーちゃんめーちゃん!)

そう言って嬉しそうにはにかむ彼の顔が浮かんで、また顔が熱くなった。
ああもう本当、良い年して何やってんだか!



(ついでだからアイス探しといてあげる。ついでよ、ついで)
(今日もめーちゃんは可愛いなあ)


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