静かな暗い、暗い夜。 パソコンだか冷蔵庫だか分からないけど、とにかく機械のうなる音だけが微かに聞こえていて。 近所に、ましてや目の前に人なんて存在しないかのように、静かだった。 音もなく俺の目を真っすぐに見つめる彼女。 いつもと同じ澄んだ目だけれど、いつもと違う虚ろな瞳。 「ねえ、レンくん。」 それは吐息のような無気力な呟きで。 「私達はどうして此処にいるんだろうね。」 自分を嘲笑うかのように小さく鼻で笑ってから、彼女は俺にしがみつく手を強めた。 その柔らかな髪の間に手を通してそっと撫でる。 「レンくん、あったかい。」 「ミクさんも、あったかい。」 彼女はふふ、と小さく笑った。 そしてまた静寂。 何も音の聞こえない空間に、頭が虚しさに似た感情に侵される。 そのまま彼女はまた虚ろな声で喋りだした。 「私達、こんなに温かくて、私はこんなにレンくんが好きなのに。」 「………。」 「今この体の中には回線がいっぱい通ってて、プログラムが忙しなく動いているんだね。」 「ミ、クさん」 「それって何だかとっても気持ち悪いし、私、私」 こわいの。 泣きそうな声で呟く彼女に胸が締め付けられる。 この気持ちは何処からくるのだろう? 静かだ。 静かな、静かな、夜。 パソコンだか冷蔵庫だか、分からない微かな音。 もしかしたら俺かミクさんかもしれない。 鳴らない鼓動の代わりに、動き続けるモーター音。 でも、それでも。 「好きです。」 「………」 「好きですミクさん。」 「レンくん…」 「大好きです。」 そう言って抱きしめる。 ほら、温かい。 これが何の熱だって、この気持ちが何のプログラムだって、良い。 暗い夜は静かで。 怖い位気持ちが澄んでいくから。 大切な気持ちだけ見失わないように。 小さな柔らかい彼女の体を、ただ、ただ抱きしめる。 「レンくん」 「はい。」 「歌って?」 「…なら、一緒に」 「うん。」 暗い静かな夜。 小さな、弱い声で歌った。 歌声は確かに響いて、それが嬉しくて。 なんかもう、それでいいやって思った。 怖くても、寂しくても、分からなくても、一人じゃないから。 静かな部屋に響く歌声は、確かにお互いを支えるのだ。 |