かぷ

□暗闇と静寂と君
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静かな暗い、暗い夜。
パソコンだか冷蔵庫だか分からないけど、とにかく機械のうなる音だけが微かに聞こえていて。
近所に、ましてや目の前に人なんて存在しないかのように、静かだった。

音もなく俺の目を真っすぐに見つめる彼女。
いつもと同じ澄んだ目だけれど、いつもと違う虚ろな瞳。


「ねえ、レンくん。」


それは吐息のような無気力な呟きで。


「私達はどうして此処にいるんだろうね。」


自分を嘲笑うかのように小さく鼻で笑ってから、彼女は俺にしがみつく手を強めた。
その柔らかな髪の間に手を通してそっと撫でる。



「レンくん、あったかい。」
「ミクさんも、あったかい。」



彼女はふふ、と小さく笑った。
そしてまた静寂。
何も音の聞こえない空間に、頭が虚しさに似た感情に侵される。

そのまま彼女はまた虚ろな声で喋りだした。



「私達、こんなに温かくて、私はこんなにレンくんが好きなのに。」

「………。」

「今この体の中には回線がいっぱい通ってて、プログラムが忙しなく動いているんだね。」

「ミ、クさん」

「それって何だかとっても気持ち悪いし、私、私」



こわいの。

泣きそうな声で呟く彼女に胸が締め付けられる。
この気持ちは何処からくるのだろう?

静かだ。
静かな、静かな、夜。
パソコンだか冷蔵庫だか、分からない微かな音。
もしかしたら俺かミクさんかもしれない。
鳴らない鼓動の代わりに、動き続けるモーター音。

でも、それでも。



「好きです。」

「………」

「好きですミクさん。」

「レンくん…」

「大好きです。」



そう言って抱きしめる。
ほら、温かい。
これが何の熱だって、この気持ちが何のプログラムだって、良い。

暗い夜は静かで。
怖い位気持ちが澄んでいくから。
大切な気持ちだけ見失わないように。

小さな柔らかい彼女の体を、ただ、ただ抱きしめる。



「レンくん」
「はい。」
「歌って?」
「…なら、一緒に」
「うん。」



暗い静かな夜。
小さな、弱い声で歌った。
歌声は確かに響いて、それが嬉しくて。

なんかもう、それでいいやって思った。

怖くても、寂しくても、分からなくても、一人じゃないから。

静かな部屋に響く歌声は、確かにお互いを支えるのだ。



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