かぷ

□全てを遮る胸の音
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しまった。忘れていた。
確かに出かける前にミクは心配そうな顔で言っていたのに。


「雨降るらしいから傘もってね!」


そうだよ、言ってたよ。
すっかり忘れてた。

いきなり音を立てて降り出した雨に慌てて足を速める。
家までまだかかるしどうしようかと思っていたら、レンの家が近くなことを思い出す。


「お願いだから誰かいますように!」


半ば祈る気持ちで濡れた前髪から落ちる水滴を払いながらチャイムを鳴らした。
しばらくして家の中から聞こえてくる足音にほっと胸を撫で下ろす。


「レンおかえ…ってクオ兄?」


レンが帰ってきたと思ったのか、笑顔で飛び出してきたリンが眉をひそめた。
片手をあげて謝りながら入れて、と笑うと頷きながら急いでタオルを持ってくる。


「さんきゅ、うっはーさみぃ。」
「びしょ濡れじゃん!傘は?」
「忘れた」
「天気予報見てなかったのー?」


呆れたように言うリンに苦笑する。
うるせ、聞いてたけど忘れたんだよ。
お風呂入る?と聞かれたので少し考えてから頷く。

しかしまあ一人で上がり込んできた男にお風呂とは少しは危機感を…
と言いかけたがピコピコ揺れるリボンを見て鼻で笑った。


(ま、こいつがそんなこと考えてる方が笑えるわ)


「胸ないし」
「何いきなり!?」


呟くと同時に拳が飛んでくる。
それから逃げるようにお風呂場へ駆け込んだ。


「んじゃ借りるわーごめん」
「ん、服乾かしとくからゆっくり入ってて!」


こいつが乾かすとか家燃えたりしないかな、と少しの不安を感じながらとりあえずありがとう、と言っておく。

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