どうしたら彼は私を好きになってくれるのだろう。 何回も何回も何回も思って。 やっぱり彼の大好きな彼女みたいになるしかないのかな、といつも通りの結論に至った。 髪を切って、あの子みたいな色に染めて。 リボンをつけて、あの子が着そうな服を着て。 そうだ、声だって調整して同じにしよう。 鈴のような、可愛い声に。 そこまで考えて初めて気づいた。 ああ私って誰にでもなれるんだ。 こんな簡単に、初音ミクをやめられるんだ。 (それってなんだかとっても、) 寂しいよね。 「ミクさん!」 呼ばれた声に振り返ると、彼が笑っていて、胸がどくんと一度だけ大きく高鳴る。 彼はそのまま私に駆け寄ると満面の笑みを浮かべて私を見た。 「ミクさん、新曲聞きました!」 「え、あっああ!ありがとう!」 「今回も良かったです。早口も聞きやすいし、高音も伸びてるし、」 そのまま嬉しい感想を繰り返す彼に思わず頬がゆるむ。 その目に映るのは純粋な尊敬。 嬉しいなって思いながら、ああ私はあの子みたいに彼の隣では歌えないんだろうなとか思った。 「ミクさん…?」 「っ!ごめん!」 不思議そうに見上げられたので慌てて意識を戻す。 ニコリと笑うとあちらもにへら、と笑った。 ああ、もう、可愛い。 「俺もミクさんみたいになりたいなあ。」 「そうかな?」 「そうですよ!ミクさんみたいな立派な歌手になりたいです!」 「立派、ね。」 曖昧に微笑むと彼はきょとんと首を傾け、俺なんか変なこと言いました?と言った。 笑って首を振りながら言う。 「いや、さっきね、私達って声もいくらでもいじれるから、誰にでもなれるんだなって思ってたの。」 「誰にでも…」 うわ私凄い暗い発言しちゃった。 まあ気にしないで、と笑うと彼は考え込むような顔をしてジッと私を見た。 「…よく分からないですけど、」 「うんそうだよね、ごめん。」 「いくら声とか姿とか変えて違う人になっても、ミクさんはミクさんだし、今のままが一番良いと思います。」 彼は純粋な瞳で照れたように笑った。 「ミクさんの声も姿も、他の奴がいくら真似たって、今のミクさんがきっと一番です!」 …ああ、もう。 これだからレンくんは。 叶わないなあ。 彼にあるのは素直な尊敬で。 それは分かってるから、その言葉も嘘でないと思える。 「…ありがとう。」 心から叫びだしたいくらい嬉しくなって、そんな気持ちが溢れるようにふわりと笑う。 彼は少し顔を赤くしてから、そっぽを向いて言った。 「あの、だから」 「ん?」 「良かったら、今度、俺とも一緒に歌って下さ、い。」 絞り出すような声が可愛くて。 欲しい言葉をくれるレンくんが私、本当に好き、とか思いながら大きく頷いた。 「うん!一緒に歌おう!」 あの子になれない私。 私の名前は初音ミク。 ねえ、でもあなたと歌えるなら、あなたが"私"に笑うなら。 私は私でいいや! レンくんもレンくんのままが一番好きだよ、とかふざけた口調で言ったら、ありがとうございますって照れたように小さく言われた。 ふふ、可愛いー。 いつか私の思いが届けばいいのにな、伝えられれば良いのにな。 私にはまだ素敵な先輩でいるのが精一杯。 だから今は二人で、恋の歌を歌っていよう。 |