「ねえ、レン」 「んー?」 「もしも人間だったら、何がしたい?」 振られたのは、リンお得意のもしも話。 どうするも何も…俺達には心もあるし、普通に遊んだりもさせて貰ってるし、人間になったからってそんなに変わらないと思うんだけど。 「んー…ここはベタに、学校に行きたい、かな?」 「ええ!宿題とかめんどくさいよ!」 「それもきっと醍醐味なんだよ多分」 「そうかなあ。あっでも文化祭とか、楽しそうだよね!」 表情をくるくる変えて目を輝かせるリンに、思わず笑ってしまった。 文化祭かあ、確かに楽しそう。 マスターの妹の文化祭を見に行った時の、あの華やかな様子を思い出す。 「ステージとか、大きかったよな」 「ね!あそこで歌ってみたいよー!」 手足をバタバタさせてそう言うリンを見ながら、ほら結局歌うことばっか考えてんじゃん、なんて思った。 広いステージに胸をはせていると、俺を見たリンがにやりと笑う。 「そんなこと言って、レン、」 「ん?」 「セーラー服のミク姉が見てたいだけなんじゃないの?」 「…っ!は、はあ!?んなわけないだろ!」 ニヤニヤと言い放ったリンの言葉に、思わず顔が熱くなる。 真っ赤だよなんて馬鹿にされて本当に腹が立つのだが、残念ながら自分が今猛烈に赤いことは自分でも分かっていて。 だって、まあ、そりゃあ。 (セーラー服とか、凄い、可愛かったし) この前の撮影で皆して学生服を着たことを思い出すと、ミクさんはやっぱりとてつもなく可愛かった。 から、別に、そんなこと考えてないわけでも… ああでもあんなミクさんを毎日見れるというのは、他の奴も毎日見れるということで。 それは勘弁して欲しい、というか嫌だ。 「…レン、今色々妄想してるでしょ」 「してねえよ馬鹿!」 「素直になれば良いのに。」 「そ、そういうお前は、どうなんだよ」 「え?」 どこまでも俺を馬鹿にしてくるリンを軽く睨みつけながら、聞き返す。 「リンは人間になったら何がしたいんだよ。」 好きな奴に対して素直になれないのは、リンだって同じだ。 今度は俺がリンのことを色々聞き出して、ミクオとのことをおちょくってやる! そう思ってリンに向かってニヤリと笑った、ら。 リンは思いの他すっきりとした笑顔で、俺に笑って見せたのだった。 「あのね、リンはね、人間には絶対なりたくないの。」 「え?なんで、」 「だって、ミクちゃんがボーカロイドじゃなかったら、クオ兄は生まれないでしょ?」 「…あ。」 確かに、ミクオは俺達とは違う。 だって彼は、本当のボーカロイドじゃないから。 「だからね、リンはクオ兄がいない世界なんて嫌だから、人間にはなりたくないの!」 …自分から話振っておいて、なんて回答してんだよ。 そう心の中で悪態をつきながらも、どこまでも優しい笑顔で笑うリンを見ると、ああもう叶わないわと思った。 リンも大人になったよなあ。 「…じゃ、ボーカロイドが一番ということで。」 「うん!そしたらレンともずっと一緒だし!」 「人間でもずっと一緒だと思うけどね」 「わっかんないよお?思春期とかあるし!」 「ははっ、まあそれもありえるか」 おどけてみせるリンに俺もつられて笑いながら、彼女の手をぎゅっと繋ぐ。 うん。幸せ。 不満がないわけではないけれど、俺もリンも今のままで十分みたいだ。 「ねえ、レン!ずっと一緒に歌おうね!」 「当たり前だろ?だって俺たち、」 「"鏡音一家"、なんだから。」 同じ苗字で繋がった俺達が、ボーカロイドで繋がった俺達と彼女らが、離れるなんてありえないのさ! *** 撮影は、DIVAのOPイメージで |