かぷ

□かまって!
1ページ/1ページ


暇だ。
どうしようもなく暇だ。
ほんとにほんとに暇だ。
もう溶けちゃいそうな位暇だ。


「レーンくーん」
「何ですか。」
「ひまあ」
「良かったですね」


ぷにぷにと頬をつついても、サラサラの髪を撫でてみても、レンくんは読んでいる本から目を離さない。


「そんなに面白いの?」
「ええまあ」


ぎゅっと抱きしめても、返ってくるのは適当な生返事だけ。
もう!ほんっとにレンくんは、夢中になると何も見えないんだから!

そんなに面白いのかな、と彼の肩に頭を乗っけて本を覗き込んでみたけれど、活字が並びすぎて読む気になれなかった。

またレンくんに話しかけたり、レンくんの髪をいじって結び直してみたり、色々したけれど、やっぱり反応が薄いとこちらもつまらない。


(さて、どうしよう)


とりあえず、私は暇だ。
今は家にレンくんしかいない。
そのレンくんは本に夢中。
でも折角二人きりだから、一人で出掛けるのも、ちょっとなあ。
うーん…

「レンくん、私寂しいよう」は最初の数回しか効果がないから、言い続けた今はやってもきっと受け流されるだろう。
「そんなに構ってくれないなら浮気しちゃうからね!」も同じ。
いっそ泣いてみる?
そうしたらきっと慌てて顔を上げてくれるだろう、多分。

ああでも、レンくんに迷惑がられたくはないし。

じゃあバナナで釣る…のはさっきお昼食べたばっかりだからだめか。

…ん?
というか。


(そんなことしないと本にも勝てない時点で、)


もしかして、彼女失格!?


そ、そんな…
わわわ、どうしよう。考えたら悲しくなってきた。
私はこんなにレンくんが好きなのに、レンくんとお話したいのに!


「レンくん、レンくん、」


しーん。
無反応、続く沈黙。

どうしよう。
レンくん、こっちを向いて、私を見て。

混乱する心に悲しさとか悔しさとか淋しさが襲ってきて、頭がぐるぐるしてくる。

本の中のメアリーだかキャサリンだか(本当に出てくるかは知らない)が私からレンくんを奪っちゃうような気がして、急に焦りが募った。
レ、レンくんの彼女は私だもん!

どうしよう、どうしたらレンくんはこっちを見てくれるかな。寂しいよ。

涙目になりながらも、降りてきたのはカイト兄の言葉。
ああそうだ男の子には、これが良いって言ってた!


「レンくん、構ってようう!!」


ガバッとスカートを勢い良くめくって、涙ながらに叫んだ。

こちらをチラリと見たレンくんの目が見開き、顔が真っ青になってから火のついたように真っ赤になる。


「え!?は!?ミクさ、馬鹿!何やってるんですか!」
「だってレンくんが構ってくれないから!」
「うわああすいませんすいません落ち着いて!」
「レンくん構ってよおお私に魅力がそんなに無いって言うのお!」
「ミクさん!ああもう脱がないで下さい!」


レンくんが慌てて錯乱する私の両手を掴んだ。
途端にしゅうっと興奮が冷めて気付いたことは、顔を赤くして何故か涙目になっているレンくんの温かな手と、脱げかかって寒い私の肩。
…あ。

や、やだ私ったら!
今更ながら自分のした事に顔を赤くすると、レンくんは深く溜息をついて、私の方に力無く倒れこんだ。


「本当、何やってるんですかミクさん…」
「ごっごめん。だって本に負けるのが寂しくて、」
「負けるも何も…いやもう俺が悪かった、です。すいません。」


まだ赤い頬を困ったようにかくレンくんに、いやいやごめんねと首を振る。

な、何はともあれ、レンくんがこっちに来てくれた。
折角だし、いっぱいいっぱい、構って貰おう。

私はレンくんを強く抱きしめて、柔らかな髪に頬をすりつけて甘えた。


「えへへ、レーンくーん。」
「…ほんっともう、無自覚すぎるのも勘弁して下さいよ、馬鹿。」



***
ちょっとアホの子なミクさんと思春期レンくん



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]