暇だ。 どうしようもなく暇だ。 ほんとにほんとに暇だ。 もう溶けちゃいそうな位暇だ。 「レーンくーん」 「何ですか。」 「ひまあ」 「良かったですね」 ぷにぷにと頬をつついても、サラサラの髪を撫でてみても、レンくんは読んでいる本から目を離さない。 「そんなに面白いの?」 「ええまあ」 ぎゅっと抱きしめても、返ってくるのは適当な生返事だけ。 もう!ほんっとにレンくんは、夢中になると何も見えないんだから! そんなに面白いのかな、と彼の肩に頭を乗っけて本を覗き込んでみたけれど、活字が並びすぎて読む気になれなかった。 またレンくんに話しかけたり、レンくんの髪をいじって結び直してみたり、色々したけれど、やっぱり反応が薄いとこちらもつまらない。 (さて、どうしよう) とりあえず、私は暇だ。 今は家にレンくんしかいない。 そのレンくんは本に夢中。 でも折角二人きりだから、一人で出掛けるのも、ちょっとなあ。 うーん… 「レンくん、私寂しいよう」は最初の数回しか効果がないから、言い続けた今はやってもきっと受け流されるだろう。 「そんなに構ってくれないなら浮気しちゃうからね!」も同じ。 いっそ泣いてみる? そうしたらきっと慌てて顔を上げてくれるだろう、多分。 ああでも、レンくんに迷惑がられたくはないし。 じゃあバナナで釣る…のはさっきお昼食べたばっかりだからだめか。 …ん? というか。 (そんなことしないと本にも勝てない時点で、) もしかして、彼女失格!? そ、そんな… わわわ、どうしよう。考えたら悲しくなってきた。 私はこんなにレンくんが好きなのに、レンくんとお話したいのに! 「レンくん、レンくん、」 しーん。 無反応、続く沈黙。 どうしよう。 レンくん、こっちを向いて、私を見て。 混乱する心に悲しさとか悔しさとか淋しさが襲ってきて、頭がぐるぐるしてくる。 本の中のメアリーだかキャサリンだか(本当に出てくるかは知らない)が私からレンくんを奪っちゃうような気がして、急に焦りが募った。 レ、レンくんの彼女は私だもん! どうしよう、どうしたらレンくんはこっちを見てくれるかな。寂しいよ。 涙目になりながらも、降りてきたのはカイト兄の言葉。 ああそうだ男の子には、これが良いって言ってた! 「レンくん、構ってようう!!」 ガバッとスカートを勢い良くめくって、涙ながらに叫んだ。 こちらをチラリと見たレンくんの目が見開き、顔が真っ青になってから火のついたように真っ赤になる。 「え!?は!?ミクさ、馬鹿!何やってるんですか!」 「だってレンくんが構ってくれないから!」 「うわああすいませんすいません落ち着いて!」 「レンくん構ってよおお私に魅力がそんなに無いって言うのお!」 「ミクさん!ああもう脱がないで下さい!」 レンくんが慌てて錯乱する私の両手を掴んだ。 途端にしゅうっと興奮が冷めて気付いたことは、顔を赤くして何故か涙目になっているレンくんの温かな手と、脱げかかって寒い私の肩。 …あ。 や、やだ私ったら! 今更ながら自分のした事に顔を赤くすると、レンくんは深く溜息をついて、私の方に力無く倒れこんだ。 「本当、何やってるんですかミクさん…」 「ごっごめん。だって本に負けるのが寂しくて、」 「負けるも何も…いやもう俺が悪かった、です。すいません。」 まだ赤い頬を困ったようにかくレンくんに、いやいやごめんねと首を振る。 な、何はともあれ、レンくんがこっちに来てくれた。 折角だし、いっぱいいっぱい、構って貰おう。 私はレンくんを強く抱きしめて、柔らかな髪に頬をすりつけて甘えた。 「えへへ、レーンくーん。」 「…ほんっともう、無自覚すぎるのも勘弁して下さいよ、馬鹿。」 *** ちょっとアホの子なミクさんと思春期レンくん |