「さあ問題です。」 リンは机に肘をつきながら俺を見てニッコリと笑った。 その指先が指すのは、机の上にある一通の手紙。 真っ白な封筒に、真っ赤なハートのシール。これはどうみても。 「ここに一通の手紙があります」 俺の目線が手紙に釘付けになったことに満足したのか、彼女は再び口を開く。 「これは誰宛ての、どんな手紙でしょうか?」 よく分からない質問に思わず顔を上げると、リンは俺を見て楽しそうに目を細めた。 彼女は人差し指をピンと立てる。 「いちばん!今日クラスメートから貰った、リンちゃん宛てのラブレター!」 弾んだ声音を聞いて、うんうんと頷く。 頬を染めるその様子に実は少しイラッとしたのだが、リンがこう見えてモテることは良く知っているので、ありえない話ではないだろう。 リンは折り曲げた指をもう一本立てた。 「にばん!私が友達から頼まれた、レン宛ての、ラブレター。」 今度は頬を膨らませてそう言ったリンに、思わず苦笑する。 これも良くあることなので、残念ながらその可能性も十分にありえるのだ。 ただ、こうした時のリンはひどく機嫌が悪くなるので、俺的には勘弁願いたい。 …まあ俺も、リン宛ての手紙を俺に渡されると気分悪いから気持ちは分かるんだけど。 さあどちらか。 黙り込んでしまったリンに、俺は首をひねる。 ここは、答えがどうであれ1番と言っておくべきだな多分。リンの機嫌的に。 (俺はできれば1番じゃない方が嬉しいんだけど、ね。) 何て言えるわけもなく。 日頃ミク姉に散々チキンだのヘタレだの言われまくってる俺は、やっぱりこれ以上彼女との関係を進展させることができないのだった。 だって、ねえ? 机越しのこの距離が、今の俺には精一杯で、十分な幸せなんだ。 「うーんそうだなあ、じゃあ、いちば…」 「さ、んばん!」 俺が答えようと口を開いた瞬間、震えるリンの声が響いた。 あっまだあったのか選択肢。 じゃなくて! さっきまで嬉しそうに笑ったり不機嫌な顔をして見せたリンの表情は、気付けば自信なさげに瞳を震わせていた。 馬鹿みたいに明るいリンが、まあ珍しい。 「リン?」 いつもと違う様子に少し困惑してしまいながらも、とりあえず彼女に声をかける。 「………。」 リンは俺を真っすぐ見てから大きく息を吐いて深呼吸をし、そしていつもの自信満々な顔で笑った。 目の前に出された指が、もう1本立てられる。 そして、少し震えた、でもしっかりした声が響いた。 「三番!リンちゃんから、レンに宛てた、ラ、ブレター!」 どくん。 思わず一瞬呼吸が止まり、それから思い出したように心臓がばくばくと音を立てる。 期待するなただの冗談かもしれないぞ、なんて心で何回も唱えながらリンを見ると、彼女ははにかむように笑っていて。 …ああ、もう。 ずっと一緒にいたんだ。 リンのこと俺が、分からないわけがないじゃないか。 言い切って安心したのか、すっかりいつもの調子に戻ったリンが、悪戯に微笑んだ。 「さあ、どれでしょう?」 1番、2番、3番、答えはきっと。 「…俺的には、3番なら、嬉しいんだけど。」 こういう言い方をするからヘタレとか言われるんだよなあ、なんて自分で自分に苦笑しながらも、何とか言った、言ったぞ俺! リンは俺の大好きな顔いっぱいの笑みを浮かべて、手紙を手に取って俺に突き付けた。 弾むような声が、俺を真っすぐに突き刺す。 「だいせいかーい!」 その真っ白な封筒を受け取ってから、思わず俺も笑った。 「やったあ。賞品ちょーだい。」 「うーん…可愛いリンちゃんのちゅーはいかが?」 「いいね、大賛成。」 |