「レンくん、起きてる…?」 ひんやりとした感覚にそっと目を開けると、ミクさんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。 ああ、来てくれたのか、悪いなあ。 起き上がろうとしたが力が入らない。 朦朧とする意識の中で、何とか口を開く。 「ミクさ、ん…すいません…」 「は?」 「ありがとうございます、」 は? だなんてミクさんにしては乱暴な言葉が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだろう。 俺のよく知る笑顔でにっこり微笑むミクさんに手を伸ばそうとした、ら。 「ミクじゃ、ないっつーの!馬鹿!」 「へ!?え、痛!」 バシッと良い音が響いた。 回る痛みと一気に覚醒する意識に思わずミクさんを二度見すると、そこにいるのはミクさんじゃなくてネルさんだった。 俺の手を勢い良く払いのけた彼女は、真っ赤な顔で俺を睨む。 「あ、ネ、ネルさん!ごめんなさい!」 「…そんなにミクが良かった?」 「いやそうじゃなくて寝ぼけてて、あの、」 「…別に良いけど。」 ひいい怒ってる! 慌てて何か言おうとしたのだが、ネルさんは黙って俯いてしまった。 けほ、と軽く咳をしながらネルさんの方を見る。 「ネルさん、どうして俺が風邪だって知って…」 「今日、いなかったから。最近マスクしてたし風邪かなって。」 「さすが。良く見てますね。」 「…っ!ち、違う!別にレンくんだから見てたとかじゃなくて、たったまたま目に入ってただけで!」 「へ?いや、それは分かってます大丈夫です。」 はは、そんなに真っ赤になって弁解しなくても、分かってるのに。 ネルさんはちゃんと周りをよく見れてる人だから、それで気にかけてくれたんだろう。ありがたい。 しかし俺がそう言うと、ネルさんは怒ったように眉を寄せてしまった。 「ネルさん?」 「…何でもない。」 「俺何か変なこと、」 「違う!レンくんは関係ないもん!」 そう言ってネルさんは頬を膨らませそっぽをむく。 ま、また怒らせてしまったんだろうか。 何故か俺は、いつもネルさんを不機嫌にさせてしまう。 「あああ私の馬鹿、何でもっと可愛いことが言えないの…!」 「え?何か言いました?」 「何でもない!」 そして、軽い沈黙。 うーん、やっぱり、ネルさんの考えてることはよく分からない、難しいなあ。 沈黙を断ち切るように、ネルさんがぽつりと呟いた。 「…何か作ろうか?」 「い、いや大丈夫です。それより何かすいません、」 「別にいいよ。何か食べたい物とか、」 「え、じゃあ…バナナ」 そっけないけれど優しい言葉をかけてくれるネルさんに遠慮がちにそう言うと、彼女は少し驚いたように目を丸くしてから、笑った。 「ふふっ。レンくんやっぱりバナナ好きなんだ。」 「笑った…」 「え?」 きょとんとこちらを見つめるネルさん。 ああ、やっぱり、ネルさんって 「笑った方が可愛いですね。」 いつもツンツンしているけれど、そうやって笑った方がずっと女の子らしくて、可愛らしい。 しかし俺が褒めた途端ネルさんは一瞬で笑顔を崩し、真っ赤な顔で口をパクパクさせながら俺を見た。 「かっ、かわ、可愛い、って!」 「…?はい、可愛いですよ?」 「ど、どどどうしようう!ふわああ」 よく分からない言葉を発しながら彼女は体を奮わせる。 もしかして、熱がうつったとか? 慌てておでこを近付けようとすると、また叫ばれてしまった。 …やっぱりネルさんってよく分からない。 (可愛いのに色々もったいないなあ) (レンくんが!レンくんが私を可愛いって!) |