「あー、あー。…よしっこんな感じかな。」 「ちょっとレン、まだちょっと鼻声だよ!」 「うるさいなあ!リンだって結局まだサ行上手く喋れてないだろ!」 「い、良いもんご愛嬌だもん!」 二人でぎゃあぎゃあと言い合いをしながら、最後にはお互いの服を掴んで取っ組み合い。 狭い箱の中にバタバタとうるさい音が響く。 しかし近づいてきた足音に、二人してピタリと動きを止めた。 心臓が、少しだけ早くなる。 リンも少し不安げな表情で、俺の耳元に顔を寄せた。 (いよいよだね、) (ああ、いよいよだ。) (リン達、ちゃんと愛して貰えるかな) (大丈夫さ!二人一緒なら。) (…そうだね、二人ならきっと無敵!) こしょこしょと小さな声で話しながら固く手を結び、目配せをしてタイミングを図る。 段々大きくなる足音が止まった瞬間。 今だ! 「うわあ!」 せーのっで箱から飛び出せば、目の前には驚いた顔をしている、僕らのマスター。 握った手に力をぎゅっと込めて、練習した通りに二人で笑った。 「「初めまして、マスター!」」 俺は鼻のつまった声、リンなんか"初めまちて"になってる。 でも、たどたどしい喋り方だけど、何とか聞き取れたはず。 長い練習のかいがあったか、俺らの言葉を聞いたマスターはすぐに笑い返してくれた。 思わずホッと息をついて、俺とリンも笑った。 これから、二人の活動が始まる。 いっぱい歌うから。 初音ミクにも、人にだって負けない位、あなたの歌を歌うから。 たくさん歌って、愛されて、もしも誰かの心に残れたら。 凄く、凄く、嬉しいなあ。 |