「レンくん、レンくん」 内緒話をする子供のように得意顔で、彼女は俺の耳元に両手をあてて囁く。 「大好き!」 それだけ言うと、彼女はくすくすと笑って俺を抱きしめた。 胸に広がる幸福感をいっぱいに抱きしめるように、俺も彼女の背中に腕を回す。 「どうしたんですか?いきなり。」 「えへへ、あのね、言葉じゃすぐに消えちゃうからね、」 ぎゅうっ 彼女が腕の力を強めるごとに、ふわりと広がる甘い香り。 どきどきと心臓が高鳴って、だけどそれが何だか心地好い。 彼女は俺の大好きなその優しい声で、優しい言葉を作り出す。 「いっぱい、好きって言おうと思って!」 にへら、と満足げに笑って「レンくん大好き!」ともう一度俺に言ってくれる彼女に、愛しさが溢れた。 ああ、もう、幸せ。 今日も俺のミクさんは最高に可愛い。 「…消えちゃうなんて、嘘ですよ。」 「え?」 「だってミクさんが好きって言ってくれるごとに、幸せがこんなにも心に溜まるんです。」 すぐになんて、消えません。 溢れそうになる幸福感を抑えるように胸に手をあてながらそう言うと、何だか自分がくさいことを言った気がして急に恥ずかしくなった。 「えっと、ミクさ、」 「…ふふっ!」 沈黙が長くなる前に何か言おうと口を開くと、彼女が幸せそうな声を上げて俺の肩に顔をうずめる。 知ってる。これはミクさんの、照れ隠しだ。 「レンくん、好き、大好き。」 「俺も、大好きです。」 「…敬語。」 「……大好き、だよ。」 ミクさんは勝ち誇ったようにふっふっふと悪役のように笑って、顔を上げた。 赤い頬に、幸せそうな満面の笑み。 ああ、ほんと、反則。 そのまま二人でそっと唇を重ねると、やっぱりまだ少し胸がむずがゆくて、何とも言えない、でも幸せな気持ちになった。 彼女が笑う。 言葉は形にできなくて。 私達の歌も形にできなくて。 すぐ消えてしまっても。 それでも十分、幸せだね。 俺は頷いてから言った。 そう。 だから、消えてしまっても何度だって何度だって、歌を歌って、君が好きだと言うんだよ。 |