かぷ

□カルシウムな日々
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朝一番はこれに限る。

鼻歌まじりにコップに並々と牛乳を注いで、一気に飲み干す。日課である。
喉を通る冷たさが全身に染み渡っていくのが、まだけだるい体にはよく分かった。

リンがその様子を呆れたように見て、呟く。


「レン、そんなことしても身長は伸びないよ?」
「黙れ」


別に身長を伸ばす為に飲んでるわけではない。断じてない!
普通に美味しいし、それに朝にカルシウムとかきっと健康だし、別に伸ばしたいとかじゃ、


「まあ本当に伸びてないけどね」
「うっるさい!」


思わずキッと睨みつけると、リンはけらけらと笑った。くそ。
しまいには「小さい小さいレンきゅ〜ん」だとか変な歌を歌いだしたので、俺はリンが抱いていたぬいぐるみを取り上げて彼女の頭に叩きつける。


「はっ!こんなの痛くもなんともないし!」
「痛くしてやろうか馬鹿!大体リンだって身長一緒だろ!」
「リンは女の子だから良いんですうー」
「お前みたいながさつな奴の何処が…」

「レンくん!」


ぬいぐるみを奪っては相手を叩き、を繰り返して取っ組み合っていたら、リビングに可愛らしい声が響いた。

ああ、この声は。

二人してピタリと動きを止めて扉の方を見ると、いつの間にか立っていたミク姉は俺たちを見てふわりと笑った。


「あのね、あのねレンくん!」
「どうしたんですか?」


今にもぴょんぴょんと跳びはねそうな位のテンションで俺に駆け寄るミク姉に胸がきゅんと締め付けられる。可愛い。
彼女はきらきらと光を反射する瞳を俺に向けて、嬉しそうに言った。


「凄いの!私達ってずっっと見た目変わらないんだって!」


私、永遠の16歳だよっ!
心から嬉しそうに笑いながら俺の頭を撫でるミク姉に、俺の頭は真っ白になる。


「…え?」


絞り出すように出した声は掠れていて、それを聞いたリンが後ろで盛大に吹き出した。あいつ後で殴る。
ミクさんは動揺する俺には気づかず、そのまま俺の目を覗き込んで嬉しそうに言った。


「良かったあ。これで私、ずっとこうやって可愛いレンくんをなでなでできるね!」


いや、いや、全然良くないです。良くないですよミクさん!
俺だって、その、男としてはやっぱり…


「もうっリン達ボーカロイドなんだから成長しないに決まってるじゃん!」
「ええ!リンちゃん知ってたの?私初めて知ったよ〜」
「ミク姉ったら可愛いなあ!」


ミク姉にガバッと飛びつき甘えた声(気持ち悪い)を出したリンは、俺を見下すように笑った。
その顔を見た瞬間、俺の心がピシッと音を立てる。

お、おまえ、まさか、


「リン!お前ずっと知って…っ!」
「えー?伸びないってリンはちゃんと言ったよ?それに別に気にしてないんでしょお?」
「……っ!」


毎朝飲むなんて、牛乳大好きなんだね!

ニヤニヤと笑うリンに「そうなの?」と首を傾けたミク姉は、俺を見てまた目を輝かせた。


「わあ!レンくん真っ赤になってる!可愛いいい!」
「か、可愛くなんてないです!」
「可愛いよレン!」
「あああリンお前はもう黙れ!」


抱き着いてくるミク姉にまた俺の頬は熱くなってしまうのだけれど、こうも可愛い可愛いと言われてしまうと空しい気持ちにもなる。
俺だってミク姉よりデカくなってミク姉を抱きしめたり、照れてもらったり意識してもらったり、したい!


はあ、と溜息を一つつくと同時にミク姉の甘い香りがして、また何とも言えない幸福感とむずがゆさが胸を占めた。

ああもう、可愛いのはどっちだよ。


「…新しい作戦を考えよう」
「え?レンくん何か言った?」
「いっいえ何も!」



数日後、マスターに「見た目が大人になるよう改造してくれ!」と土下座をして頼みこむも失敗して、死にたくなる位リンに馬鹿にされるのは、また別の話。



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