今日のレンくんは変だ。 気のせいと言われれば気のせいかもしれないけれど、いつもレンくんの側にいる私には分かる。 なんだか少し、何だろう…そわそわしてるような、嬉しそうな感じ。 「レンくん、今日何かあったの?」 「へ!?い、いえ何も!」 不思議になって尋ねてみると、レンくんはどうみても慌てたように下手な笑顔を作ってみせた。 やっぱり、おかしい。 頬を緩ませながら落ち着かない様子で「なんでもないですよ」なんて言う彼は明らかに挙動不審だが、きっと本人的には上手く隠しているつもりなんだろうから、本当にレンくんはそんなところが素直というか何というか。 可愛い。可愛いんだけど、 (どうしたんだろ?) 頭の中で色々と考えてみるけれど、どうにも思い当たることはない。 首を傾げながらもとりあえずレンくんの前に私が作ったオムライスを置くと、彼はそれを見つめながら嬉しそうに目を輝かせた。 「へへ、ミクさんの料理久しぶりですね。」 「だって最近レンくん仕事ばっかりだもの。」 「それはお互い様ですよ」 「まあそうだけどー」 言いながら頬を膨らませると、レンくんはふにゃりと笑ってみせる。 なんだか凄く久しぶりな気がするその表情に、胸がきゅっと締め付けられてにやけそうになってしまった。 だって本当に寂しかったんだもの。 その分、この時間が幸せでたまらない。 最近、会える時間がぐっと減った。 そりゃあ、私の歌の仕事も忙しいし前から中々会えなかったけれど、最近はレンくんの仕事が忙しくて、全然予定が合わなかったのだ。 今日は奇跡的に二人とも早い時間に仕事が終われたから、こうして私がレンくんの家にお邪魔してご飯を作っている。 本当ならこのまま泊まってたくさんイチャイチャしたい、なんてよこしまな気持ちもあるけれど、残念ながらお互い明日も朝から仕事。 触れ合う時間もとれない毎日だ。 (ああ、そろそろ一日デートしたいよ) なんて思った瞬間、心を読んだかのようにレンくんがスプーンを掬う手を止めて口を開いた。 「ミクさん、次の一日オフの日、いつですか?」 「え?ああ、ちょっと待ってね、えっと…」 手帳を開いてオフの日を確認する。 この瞬間が、いつも私に安心を与えてくれるのだ。 次もまた会ってくれる。忙しくてもまだレンくんは私に会う時間を作ろうとしてくれてる。 なんて、どれだけ不安になってるんだろう、私。 「んー、6月は最後の辺りが空いてるかな?」 「6月空いてますか?やった!」 珍しく素直にはしゃいだレンくんに、少しだけ胸が高鳴る。 これは、あれかな。今月中にまた会えて嬉しいってことで、良いんだよね? 「じゃあミクさん!絶対、絶対その日空けておいて下さいね!」 「い、良いけど、レンくんも休みなの?」 「まだ分からないですけど…休みにするから大丈夫です!」 「え!?」 あの真面目なレンくんが? そりゃあ有給だって溜まってるだろうけど、いつもはこんなに無理矢理予定を空けてまで会おうなんて言わないのに。 いや、嬉しいけど。だけど、どうして? 「その日、何かあったっけ?」 「…っ!い、いえ、別に、」 「無理しなくて良いんだよ?」 「俺が会いたいだけだから良いんですー!」 またまたレンくんの様子がそわそわと変になったので問い詰めようと思ったのだが、そんなことを言われたら何も言えなくなってしまう。 ずるい、ずるいよ。 私だってたくさん会いたいって思ってるんだからね! やっぱりレンくんは少し様子がおかしいけれど、嬉しそうだし私に優しくしてくれるし、あんまり気にしなくても良いのかな。 きっと可愛いレンくんのことだ。その日に何かしたいことがあって、私にもそれを一緒にさせてくれるんだろう。 レンくんが楽しみにしている何かに、私も隣にいられる。 それはとても幸せなことじゃないか。 秘密にされるのは少し寂しいけれど、それが決して私への悪意とかそういうものがあるわけではないことはよく分かる。 にやけを抑えきれてないレンくんが何だか子供みたいで愛しくて、私も思わずにやにやしながら、彼の隣に座った。 |