「…アペンド。あんたの狙いは分かってるんだよ帰れ!」 「へーさすが同じ鏡音レン。好きな人は被っちゃうのかな?」 「うるさい黙れ。言っとくけど、ぽっと出のあんたにはもう入る隙なんてないから。」 「ふーん、ねえ知ってる?俺との方が身長差もちょうど良いんだよ?」 「…死ね。」 誰の話をしてるんだろう? 言い合いの内容までは聞こえなくて、私は思わず身を乗り出した。 不機嫌そうに眉を寄せたレンくん(私の知ってる方)が、見下したように笑って相手を見つめる。 「残念でした。今日は家には俺しかいないよ?」 「チッ。なんだよ来て損した。」 「ほらほら早く帰れ」 「また明日来てやるよチビッ子無印くん?」 「うるせえ新入り!」 「あーあ会いたかったのになあ…って、あれ?」 残念そうに溜息をついたアペンドくんが廊下の奥を見つめるのと、私がもっと話を聞こうと更に身体を乗り出すのが、同時だった。 あ、やばい。なんて思う間もなく、彼と目が合う。 パッと一瞬で輝いた彼の表情はやっぱり可愛かった。 「なんだいるじゃん!」 「え!?あ、しまった!」 「隠し事は良くないよ無印さーん」 「か、勝手に人の家に入んな!」 「お邪魔しまーすっ」 キラキラした瞳で私を指差すアペンドレンくんを見たレンくんが、振り返って目を見開く。 覗き見していたのがばれてしまった。 レンくんは黒い笑みをにっこりと浮かべて私を見る。 (出るなって、言いましたよね?) (ひいいごめんなさあい!) そんな視線には気付かずに、アペンドレンくんはぱたぱたと私の元へ走ってきて、私の手をきゅっと掴んだ。 「初めまして。隣の家の鏡音レンです。」 「は、初音ミクです、よろしくね。」 「いやあ噂で聞くより全然可愛いですね!」 「か、かわ!?」 レンくんと同じ顔で、そんな笑顔で、私を可愛いって、可愛いって…! 控えめなレンくんとは違ったその表情に、顔がどんどん熱くなっていく。 「はは、赤くなった。可愛いなあ」 「良いからさっさとその手を離せ!」 「はいはい邪魔物は黙ってろよ」 「おっまえが邪魔なんだよ!」 レンくんは真っ赤な顔をして、アペンドレンくんの手と私の手を引き離した。 珍しく語気の荒いレンくんに、新鮮な気持ちになる。 (自分と同じ存在って、そんなに嫌なものなのかな?) 思わず考えこむ私に、アペンドレンくんはまたにっこりと笑った。 何だか大人になったレンくんを見ているようで、どきりとしてしまう。 「ミクさん、今度俺とも歌って下さいね」 「もちろん!よろこんで。」 「ついでに二人で遊びに…」 「レンー?マスターが呼んでるよー?」 アペンドレンくんが何か言いかけた時、リンちゃんの声が響いた。 いや、私の知っているリンちゃんとは、少し違う。 だからきっとこれは、 「はあ…今日は帰ります。」 「おー二度と来んなよー」 「ちょっとレンくん失礼でしょ!またねアペンドレンくん!」 「っ!は、はい!」 笑ってヒラヒラと手を振ると、彼は頬を真っ赤にして去っていった。 ああいう表情はレンくんとそっくりだ。ふふ、可愛い。 玄関の扉越しからアペンドレンくんとリンちゃんの言い合う声が聞こえて、思わずくすりと笑ってしまう。 明日はリンちゃんの方にも会いたいな。 「…レンくん?」 微笑ましい気持ちになりながら玄関を見つめていたら、ふいに手を握られた。 どうしたのかな、と首を傾げてから、自分が彼との約束を破っていたことを思いだす。 「ああ、あの、レ、レンくん!ごごごめんなさ、」 「会わせたくなかったのに。」 「え?」 「ミクさんはああいう、背が高くて素直な俺の方が、やっぱり好きですか?」 寂しそうな拗ねたような表情で頬を膨らませて、レンくんは私を見上げてきた。 胸がきゅーんと締め付けられて、思わずレンくんを抱きしめる。 「ああもう可愛いなあっ!」 「ミ、ミミミクさん!ちょっと!あの!」 「心配しなくても私の可愛い弟はレンくんだけだよ!」 「……は?」 「へ?」 柔らかな髪をぐりぐりと撫で回しながら言うと、赤くなって抵抗していたレンくんの動きが止まった。 どうしたんだろうとレンくんの顔を覗き込むと、レンくんは信じられないとでも言いたげな目をして私を見つめる。 「レンくん?どうしたの?」 「鈍感」 「ドンファン?」 「ばーか!」 「え、何?ひどくないレンくん!?」 よく分からずに混乱していると、レンくんは急に真剣な目をして私に、「誰にも渡す気はありませんから」と笑った。 その言葉に何故だか心臓がどくんと音を立てて、それを隠すようににへら、と私も笑う。 「まったくレンくんったら姉離れできないんだからあ!かーわいい!」 そう言うとまたレンくんは不機嫌になって殴られてしまった。 どうしてだろう? |