かぷ2012

□だって特別だから
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レンくんは私をルカちゃんと呼ぶ。
理由は私が後輩だから。


「よろしく、お願いします!」


初めての挨拶は緊張して、頬を赤くしながら私は頭を下げた。

初音ミクや鏡音リンレンの活躍により、ボーカロイドは大人気。
そんな中出た新作の私に皆は期待を寄せてくれて、それが嬉しいけれど怖くて、声が震えてしまったのだ。

そんな私をイメージと違うと笑いながら(後から知ったことだが発売前の私にはドSキャラのイメージがついていたらしい)、レンくんは私の手を握って言った。


「よろしくね、ルカちゃん」


その日からずっとレンくんは私をルカちゃんと呼ぶ。
見た目は私より年下なのに先輩らしい言葉使いの彼に、少し不思議な感じがしたものだ。

なら私は敬語の方が良いのだろうか、と畏まって彼をレンさんと呼んだら、言われ慣れてなくて恥ずかしいからやめてと言われてしまった。

あれから、しばらく経って。
ボーカロイドにも慣れた私の心には、何か新しい感情が生まれ始めている。


「ルカちゃん、次レッスン俺と一緒だよ」
「あ、そうなんですか」
「…敬語」
「ご、ごめん、」


敬語は癖みたいなもの、と弁解するとリンには敬語じゃないじゃんと頬を膨らませる。
そんな子供らしい表情の彼は、とても可愛らしい。


「レンくん、今日は何の曲録ってたの?」
「今日?今日はミクさんの曲のコーラス。」
「そうなんだ。」


…最近、気づいたことがある。
レンくんはリンちゃんやカイトさんのことは呼び捨て。
ミクちゃんやぐみちゃんなど女の子にはさん付け。

私のことは、ちゃん付け。

私が後輩だからだろうか。
だとしたら私やレンくんと同じシリーズのボーカロイドがもう出なくて良かったな、なんて思ってしまう。

こんな簡単なことに特別を感じたいのだ、そんなものなのだ。

だって、私はレンくんが、


(好き、です。)


「ん?どうしたのルカちゃん?」
「い、いえっ何でもないです!」
「敬語!」
「あ…」


レンくんのその思わせぶりな拗ね方とか、優しさとかに、どうしようもなくドキドキしてしまう。
彼より背の高い私なのに、可愛い顔しながらもしっかりしているレンくんの前では、自分が誰の前よりも女の子になれる、そんな気さえしてしまうのだ。


「ルカちゃん」


ああ、その特別な響きが、愛しくてたまらない!



「好きな人にちゃん付けされるのって、嬉しいものよね」


そう私の側をうろつく紫に漏らしたら、目を輝かせてルカちゃん呼びしてきたのでとりあえず殴っておいた。


「明日はレンくんとレッスン。」


好きだなんてやっぱり言えないし、私はレンくんにとって未だに"初めてできた後輩"でしかないんだろうけど。
でもやっぱり、私はレンくんといるのが好き。レンくんと歌うのが好き。

だから今はこのままで。
いつかもっと、リンちゃんにもミクちゃんにも負けないくらいの恋の歌を目の前で歌って、振り向かせて見せるんだから。



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