ロング

笑って、笑って。
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「ふわぁーっ! 気持ちい────!」


あたしは寄宿舎にある自分の部屋に入るなり、ベッドに思いきり飛び込んだ。

ああ、幸せぇ…。やっぱふかふかのベッドは良いわぁ。最高だね。
軍人時代にはベッドでこんなふうに悠々と眠る生活なんて、ほぼ無縁に近かったから。

自分の匂いが充分に染みついた枕とシーツは、どんな時もあたしを温かく迎えてくれる。
当たり前だけど、こういうのってすごく落ち着くよね。


──ふと、あたしは壁に掛けていたカレンダーに目をやった。

今日は8月17日。
補習という名の戦争は、あと二週間も続くらしい。

…正直、長い。長すぎる。
昔の某怪獣映画に出てくる兵器・スーパーXの正式名称『陸上自衛隊 幕僚幹部付実験航空隊 首都防衛移動要塞T-1号 MAIN SKY BATTLE TANK スーパーX』並みに長い。

まあ体力には自信があるからそれは良いとして、夏休み最終日までにあたしの精神力が保っているかどうか。
それがただ心配でならない。


「……って、あれ?」


カレンダーをじっと眺めていたあたしは、とある事に気がついた。

夏休み最後の日──つまり8月31日。
この日って、何かあったような気が…。


「えーっと…。確か、この日って…」


あたしはスカートのポケットから電子生徒手帳を取り出し、電源を点ける。
そして、クラスメイト達のプロフィールを一人一人確認していく。


「…あ! あったあった! そっか、やっぱりね…」


その日は、ちょうどあいつの──石丸の誕生日だった。
こういう時、この電子生徒手帳は本当に重宝する。

ただ…誕生日や身長はまあ良いとして、全員の体重や胸囲までこの手帳で見れるってのはどういうワケなの? これってプライバシーの侵害にならないの?
それともこれは、あたしに対する当てつけなの?(胸囲的な意味で) ねえどうなの??(胸囲的な意味で)

生徒手帳に胸囲入れようって発案した奴に向かって、某プロレスラーよろしく「出てこいやァッ!!」って大声で叫びたい気分になってくる。

…あ。とまあ、その件は今のところは置いとくとして。


「誕生日プレゼント、あげた方が良いのかなあ…」


あたしは思わずそんな事を呟いていた。

…ん、いや。だって、ねえ?
あいつの誕生日当日は、どうしたってあいつと顔を合わせなきゃならない訳だし。
と来ればやっぱり誕生日プレゼントあげなきゃなんないかなー、なんて。
忘れたフリしちゃえばそれはそれで済むかもしんないけど、なんか…気が引けるし。

って言ってもなー。何をあげたら良いか分かんないんだよね。
あいつの好みとか良く知らないし…。
うーん、悩むなあ…。


「思いきって…誰かに相談しちゃおうかな?」


ここはいっその事、誰かにアドバイスを仰ぐとしようか。
…って言っても、一体誰に?

あたしって表面上はやむなくこういう人懐っこくて明るい気さくキャラ演じてるけどさぁ、実は人に話しかけるのすんごい苦手だったりすんだよね。
…全く、演技するのも楽じゃないよ。

でも、女子だったら何とかなるかもしれない。
そうだなあ…。うちのクラスで比較的話しかけやすくて、こんな相談に快く乗ってくれて、かつ口の堅そうな子(変な噂でも立ったらいけないしね)っていうと…。


……うん。やっぱり、『あの子』かな。
てか、あいつしかいないよね。


「よし…! 善は急げっていうし、至急任務開始だッ!」


あたしはそう自分に言い聞かせると、ベッドからガバッと這い起きた。


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