ショート

罪と罰
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「あぁ……ッ!! 遂に…遂に、始まるのね…!」


そう言い、隣で今にも昇天しそうな表情を浮かべているのは、江ノ島盾子──私の双子の妹だ。

彼女は『超高校級のギャル』と呼ばれており、そして…私と同じく『超高校級の絶望』の一員でもある。


「…盾子。ひとつだけ、確認したい事がある」
「……何よ? 残念なむくろお姉ちゃんの事だから、まさか『計画』の内容を忘れちゃった…とか言い出すんじゃないでしょうね? …そういうのはマジ勘弁してよ?」


盾子が私を少々嘲るような口振りでそう言った。
今彼女が言った通り、私は彼女にとっては『残念』な姉なのだろう。

…だが、それも仕方のない事だ。
何故なら彼女は容貌、知力、カリスマ性……全ての面で私に勝っているからだ。私には到底敵うはずもない。
私がこの子に勝てるのは、せいぜいミリタリーに関する知識くらいのものだろう。


私が限り無く黒い『闇』ならば、この子は目映いばかりに輝く『光』。

そう…。
私達は表裏一体、二人きりの姉妹なのだから。


「…いや……。『計画』については、きちんと頭に叩き込まれているから問題ない。ただ……」


私は盾子を真剣な表情で見つめ、こう問い掛けた。


「……本気…なんだな? 本気でこの『計画』を実行するつもりなんだな…?」
「……はああぁ??」


盾子は整った眉を思いきり歪ませ、素っ頓狂な声を上げた。


「…つーかさ。ここまでやっといて、今更何言ってんの? 馬鹿なの? 死ぬの?? てかお姉ちゃんの冗談って、昔から絶望的に笑えないよね。超シラケるし。……ホント、どこまで残念なのさ」


そう皮肉り私を見る盾子の目は、明らかに不快感に染まっていた。
…それはまるで、汚らわしいモノを見るかのような眼差しで。

……だがそれは珍しい事ではない。良くある事だ。
だから私も別段気に留める事なく、話を進めた。


「……いや、ただふと気になっただけだ。お前の計画に、元から異論など無い…」
「……」
「私こそおかしな事を聞いてしまって、すまなかった」
「………。あ、そ」


そう言うと盾子は踵を返し、この場から立ち去るため歩き出した。
その態度には、もはや私と共には居たくないというような意思すら感じさせる。

…私は彼女の機嫌を完全に損ねてしまったようだ。


「……あ、それからさあ」
「…何だ?」


ふと盾子が立ち止まり、私に声を掛けた。


「例の『入れ替わり』の件、ちゃんとやってよね。…曲がりなりにもこのアタシのフリをするんだから。なりすますなら徹底的に…だからね」
「ああ…分かっている」
「……アタシはね、この世界を『絶望』に染め上げるためだったら何でもするよ。……そう、何でも…ね」
「…………」


盾子の言葉に、思わずぞくりとしてしまった。

表情こそ伺えなかったが、そう言った時の彼女の口調にいつもの気だるさは一切感じられなかった。
あえて形容するならば、『静けさの中に潜んだ狂気』──といったところだろうか。


「ふう…。もうお姉ちゃんと話すの絶望的に退屈だし、飽きたから寝るわ。じゃね、おやすみー」
「……ああ、お休み…」


振り返りもせず口早にそう言うと、盾子は去っていった。


(……世界を『絶望』に染め上げるためなら何でもする、か……)


その後ろ姿を見送りながら、私は先程の盾子の言葉を思い返していた。


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