ロング
□こんなクリスマスもあり…ですか?
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「あ、あのさ…。話の腰を折るようで悪いんだけど……十神君が飲んでるのは、ワインじゃないと思うよ」
「……!」
不二咲の言葉に、十神がピクリと反応する。
「え…? そ、それってどういうこと? 不二咲ちゃん」
「ああ…。不二咲、オメェを疑う訳じゃねーが、ありゃあどっからどう見ても赤ワインにしか見えねえぞ?」
「お、大和田君…。でも、嘘じゃないんだ。…実はね、さっき見ちゃったんだよ…」
「見たって…何をですか?」
「……う、うん……。実は……」
次の言葉を発する前に、不二咲がちらりと十神の顔色を伺う。
するとそこには、前科を何十、何百犯と重ねている極悪非道の殺人鬼よろしく不二咲を睨み付けている十神の姿があった。
その瞳は明らかに「それ以上言うな、言ったら殺す」と不二咲に訴えていた。
それを見た瞬間、怖さの余りびくりと身体を震わせた不二咲だったが、そんな自分を振り払うように首を横に振り皆に向き直った。
「じ、実は……。十神君の飲んでるのはワインなんかじゃなくて、フ●ンタなんだよ。…グレープ味の」
不二咲のその言葉に、一同は唖然としたような表情で目を丸くした。
「……え?」
「……フ、フ●ンタ…? マジで?」
「……!! ふ、不二咲…! 貴様…ッ!!」
拍子抜けという名の戦慄とどよめきが、一気に場内を駆け巡った。
そしてそれは、不二咲の次の発言により更に加速度を増していく。
「…ついでに言うと、さっき皆が大食い対決をしている最中、偶然聞いちゃったんだ。……どさくさに紛れて十神君が、ゲ●プをするところ……」
「…………!!!」
この場に漂う何とも言えぬ不穏な空気は、もはや誰にも払い去る事は不可能だった。
そして、十神以外の一同の脳内は、
「超高校級の御曹司が、カッコ付けてワイングラスでフ●ンタを飲んでるとか……超だっせぇ…。しかも極めつけがゲ●プって……。流石はかませ眼鏡」
という情報で占領されていた。
但し、約一名を除いての話だが。
「…ち、ち、ちょっとォォォッ!! 白夜様のゲ●プなんてこのあたしでも聞いた事なんかないのに…ッ! なんでよ、なんでその時すぐに教えなかったのよ!?」
最高のチャンスを逃してしまった、どうしてくれるんだと言わんばかりに腐川は不二咲に食い掛かる。
「そ、そんな事言われても、僕も偶然耳にしただけだったからぁ…。僕だって別に、十神君のゲ●プなんて聞きたくもなかったよぉ……!」
不二咲はあくまで偶然である事を強調する。
確かに、十神のゲ●プを聞きたいなどという物好きは腐川以外にはいないだろう。
そして、不二咲が言葉を紡げば紡ぐほどに決まりが悪くなる十神。
「超高校級のお坊っちゃんは、何だかんだでまだまだお子ちゃまだったって事だべ。…よし、今日から俺は十神っちの事をゲ●プ眼鏡と呼ぶべ!」
「ププッ! それ賛成! …あ、ゲ●プ眼鏡さん、今日も良いゲ●プを期待しておりますよ〜。ささ、フ●ンタどーぞどーぞ!」
「ハハハハ!! 何それ、マジウケんだけど!」
「……白夜様の、ゲ●プ…聞きたい…。そしてその匂いを、思い切り吸い込みたいわァ……。フフ、フフフ、フヒャヒャヒャヒャホッ!!」
「……貴様ら、今すぐ殺す!! 確実に殺すッ!! ここを貴様ら全員の墓場にしてやる!!!」
今ここに、新たな戦いの火蓋が切って落とされる……かと思いきや。
それは意外な人物のシャウトによりかき消されたのだった。