ロング

こんなクリスマスもあり…ですか?
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「…ていうか、あんた達の食いっぷり見てると本当気持ち悪いんだけど…ッ。食べ方も下品だし、不愉快だわ…。ウエェェェェッ!!」


込み上げてきたものを遂に耐えられなくなったのか、腐川は呻き声を上げ苦しそうに口を押さえた。
元より悪い顔色は、ますます悪化している。


「わ…っ、ふ、腐川!! 激マズだって! ちょ、つーかアタシにかけないでよ!?」


自分にも被害が及ぶと危機感を感じたのか、腐川の近くにいた江ノ島はすぐさま立ち上がり、軍人の如くキレのある機敏な動きで後ずさった。


「……じ、実は僕も…大神さん達を見てたらさっきから気分がぁ…。あ…! で、でも誤解しないで…? ぼ、僕が男のくせに食が細いのが問題なだけだから…。大神さんや朝日奈さんが悪いって訳じゃ…………うぷ…っ!!」


言い終わらないうちに不二咲は顔を俯け、床に沈み込んだ。
この様子からすると、相当我慢していたらしい。


「……!? ち、ちょっとォ! ふ、不二咲もなの?? マジ勘弁してよ!? …ほら、腐川も不二咲も、袋やるから!」


焦りながらも、江ノ島は近場にあったビニール袋を咄嗟に二人に差し出した。
…そして、数分後。


「…………ふう………」
「……す、すっきりしたぁ…。あ、ありがとうね……。江ノ島さん」
「ん。ま、良いんだけどさあ…」


江ノ島の気の利いた行動のおかげで、何とか被害は最小限で済んだようだ。


「それに比べて、白夜様のエレガントさと言ったら……! ふああぁ…ッ!!」


すっかり気分が良くなった腐川は、一昔前の少女漫画の如く瞳を輝かせ、若干薄気味悪さすら感じさせるような恍惚の表情を浮かべている。


「……貴様、妙な声を出すな。耳が腐る」


苛立ちと不快感を露にさせた声の主は、どこから調達したのか豪華な皮張りの特注ソファに腰掛けた十神だった。

十神は他の生徒達から距離を置くように陣取り、片手でワイングラスを傾けつつ読書に耽っていた。
十神の周囲だけが別空間、といった雰囲気だ。


「ていうか十神クン、ワインなんて飲んじゃマズいよ…。ボク達まだ未成年なんだし…」
「いや、俺はハタチだべ! だから未成年じゃないべ!」
「……ふん。貴様ごときがこの俺に説教とは…。苗木、その勇気だけは讃えてやっても良いぞ」


言葉とは裏腹に、十神の表情はあからさまに不機嫌そのもの。苗木の発言に気分を害したようだった。


「い、いや、説教なんて、ボクはそんなつもりじゃ…」
「そうですよ。苗木君は悪くありません。苗木君はただ正論を言っただけです!」
「つーかワインなんてあったっけ? 普通に考えたら、未成年だらけの場所にそういうのが置いてある事自体おかしくね?」
「…ん、いや、だから俺はハタチだって…」
「十神くんッ!! 校則違反だぞ!! いくら冬休み期間とは言え、ここは学校には変わりないのだからな! …罰として、君にはこれから『三年間ずっとトイレ掃除の刑』に服してもらおうではないか! 来る日もトイレ掃除、また明くる日もトイレ掃除……どうだい? 絶望以外の何物でもないだろう!?」
「……ハアァッ!? 風紀委員ヤロウオメー何言ってやがる!? …トイレ掃除バカにすんな! トイレには神様がいんだぞ!?」
「…あ、その曲知ってるー。今年の紅白で歌われるんだったよね?」
「いやいや〜、何をおっしゃるマドモアゼル。やはり今年の紅白の目玉は、去年から引き続き出場の女性声優・水●奈々に決まってるだろうがァァッ!! むしろ僕はそこだけ観るんですけどね!」
「おーい! 誰か聞いてくれー!! 俺は未成年じゃなくハタチ…」
「………………。貴様ら……。全員俺に殺されたいのか…?」


好き勝手自らの主張ばかりする一同に十神が今にも激怒しかかっていたその時、今にも消えそうな弱々しい声が聞こえてきた。


「……あの、ちょっと待ってよぉ。みんな…」
「……? ふ、不二咲クン…??」


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