ロング

“おかえり”と“ただいま”
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その日の夜。
全ての仕事を終えた江ノ島は、自宅のマンションへと真っ直ぐ帰宅していた。

玄関を潜り部屋に入るなり江ノ島は、電気も点けずにこう呟いた。


「……ただいま」


けれど、無人の部屋からは勿論返事が返ってくる事はなく。
江ノ島がぽつりと呟いた言葉は、部屋を漂う静寂と冷たい闇の中に掻き消されてしまった。


江ノ島が住んでいるマンションは都心から数十キロ離れた距離に建っており、比較的静かな所だった。
芸能人という立場上、なるべくプライベートでは平穏に暮らしたかった彼女にとっては、いわゆる穴場とも言えるだろう。

郊外とは言えセキュリティは万全で、全部屋は全てオートロック式。
更に部屋の鍵は複製やピッキングが出来ない仕組みとなっており、つまり──その部屋を契約している住人以外は絶対に入る事が出来ない構造となっている。
その点も彼女がこのマンションを『新たな』住居として選んだ大きな一因であった。

ちなみに部屋の間取りは2LDK。一人で暮らすには充分過ぎる大きさである。
──そう。『一人で暮らすには』、だ。


かつてこの部屋には、江ノ島以外にもう一人住人がいたのだ。
しかしその住人は訳あってこの部屋を去って行ってしまった。

全ては、今からちょうど三ヶ月前。
『彼』からの衝撃的な一言が原因だった。


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