ロング

“おかえり”と“ただいま”
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「あれー? ジュンコじゃーん」
「江ノ島先輩、お疲れ様でーす!」


その途中、彼女に声を掛けてきたのは江ノ島と同じ事務所に所属する同期のモデル仲間達だった。
江ノ島とは反対側から歩いてきた二人は江ノ島の姿を見かけると、彼女に声を掛け、近づいていく。


「あれ? …あ、そっか。アンタ達もこれからここで撮影なんだっけ」
「うん、まあねー」
「そっか。ま、頑張んなよ」
「ありがとうございまーす! …あ、そうだ、江ノ島先輩!」
「…? ん、どうしたの?」
「江ノ島先輩、確か今日の夜はフリーでしたよね? わたし達この仕事が終わったら打ち上げで飲みに行くんですけど、先輩もどうですか?」
「あ! いいねいいね〜。ジュンコも行こうよ! あんたが来てくれれば、きっとすごい盛り上がるだろうしさ〜!」
「……。あ、う、うん…」


すると、嬉々とした表情のモデル仲間二人とは対照的に、江ノ島は何故か顔を曇らせ、首を横に振ってみせた。


「あー……ごめん。悪いけど、今日はパス」
「ええーっ!? またですかあ!?」
「そう言ってジュンコってば、こないだも飲み会断ったじゃーん! 最近付き合い悪いよアンター」
「う…っ。だからごめんってば。ここんとこあまり体調良くなくてさぁ。あは、あははは…」


そう言って江ノ島は、ばつが悪そうにぎこちない笑い声を漏らした。


「と、とにかくっ! 埋め合わせは今度絶対するから! 今日はごめん! ホントごめん! …そんじゃまたね! お疲れー!」
「え、あ、ジ、ジュンコぉ…!」


それ以上詮索されたくなかったのか江ノ島は早口でまくし立てると、足早にその場を立ち去って行ってしまった。
残された二人は、そんな江ノ島の後ろ姿を呆然と見送るより他なかった。


「……最近、元気ないですね。江ノ島先輩」
「そうだね…」
「あの…。やっぱり、原因って…」
「…うん。多分ね」
「そう言えば、最近見ませんよね。数ヵ月前まではしょっちゅう事務所に挨拶に来てたのに…。あの熱血彼氏さん」
「だよね…やっぱり二人の間で何かあったのかな?」



* * *



一方、仲間からの誘いを何とかのらりくらりとかわした江ノ島は、一人控え室へと入って行った。
そしてそのまま部屋の扉へ凭れかかり、ぐったりと首を垂れる。

視線を落とし俯くその眼差しは痛々しいほどに沈んでおり、もはやその目には何も映っていないのではと思わせるほどに空ろで。
先程まであれだけ生き生きと輝いていた彼女と同一人物とは到底思えない。


「………。ふぅ……」


江ノ島は、深くため息をついた。
それは仕事仲間達には決して見せない江ノ島の陰の姿、素顔であった。


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