ロング

“おかえり”と“ただいま”
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都内に存在する某スタジオ内。
雑誌の撮影用に設けられたセットの中央──煌々と光り輝くスポットライトの下に、江ノ島盾子は立っていた。


「良いねえ〜。うん、すごく良いよ! 盾子ちゃん!」


そう言いながらカメラマンがせわしなく動き回り、セットの中心にいる江ノ島の姿をカシャカシャとカメラに収めていく。
その度に江ノ島はポーズを変え表情を変え、臨機応変に対応する。
目映いほどの無数のライトの光は、彼女の日本人離れした抜群のプロポーションをより一層際立たせていた。

時には無邪気な少女、そして時には成熟した女性の色香を見せつける江ノ島の機知に富んだ表情の変化には、見る者を夢中にさせる圧倒的な魅力があった。
細身の身体から繰り出される堂々とした江ノ島の立ち振る舞いには、もはやその道を極めた者の風格すら漂っている。


「…よおーし、オッケーオッケー! 今日の撮影はこれで終了ね。お疲れ、盾子ちゃん」
「はーい、お疲れ様でした〜」


カメラマンからそう声が掛かると、江ノ島は大きい口を三日月のように広げニカッと屈託なく微笑んだ。
その瞬間、モデル・江ノ島盾子は年相応のただの一人の女性に戻っていた。


「やっぱり盾子ちゃんはスゴいね〜。仕事は素早く、そしていつでもパーフェクト! 若いのに大したもんだよ〜」
「えー、やだなあ〜。そんなに誉めたって何にも出ませんよー? アタシって、こう見えて実はおカタい女だしー」


江ノ島の言葉に、スタジオ内の人間がどっと吹き出した。そして先程までの張りつめた空気は一気に和やかなものへと変化する。

求められる役割だけを淡々とこなすだけでなく、こうして周囲のスタッフ達へのリップサービスやコミュニケーションを忘れない。
スタッフとの潤滑の良い関係は、より上質で満足度の高い仕事作りへと繋がっていく──これも彼女の方針の一つであった。
『モデル界のカリスマ』と持て囃されながら、どこか彼女に人懐っこい親近感を感じられるのは、恐らくこのためだろう。


「はは…まったく、盾子ちゃんにはかなわないなあ。じゃあ明日も引き続き撮影があるから、またよろしくね〜」
「はーい、よろしくお願いしまーす!」


江ノ島は苦笑いを浮かべるカメラマンや他のスタッフ達に会釈し、撮影現場を後にする。
その後着替えをするため控え室へと向かった。


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