ロング

誠心誠意
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──ピンポーン


…突如、無機質な部屋のチャイムが俺の耳を刺激する。
億劫だなと思いながらも、俺は音のした方角──部屋のドアへと近付いて行く。

どうやら、誰かが俺の部屋のチャイムを鳴らしたようだった。…大方その人物には見当がつくが。
俺はドア越しのその相手に届くよう、やや大きな声で呼び掛けた。


「…誰だ?」
「あ、俺だ。日向だけど…」


…ふん、やはりな。予想通りだ。
こういう時、俺に構ってくるのは奴しかいない。
そういう奴なのだ。こいつは。


「…何の用だ?」
「もうすぐ朝食の時間なんだが、お前がレストランに来ないから呼びに来たんだよ。早く行こうぜ?」
「悪いが、今日の朝食会は欠席させてもらう。…生憎、今は食事をしたい気分ではないのでな」
「……。そうか…分かったよ」


俺の返答が不満だったのか、日向は少々間を置いてから渋々とそう言った。
だがこれが俺の今の正直な気持ちなのだから、やむを得まい。

それに、今の俺には朝食会に参加したくない正当な『理由』があったのだ。


「じゃあ…皆には俺からそう伝えておくよ」
「ああ。そうしてもらえると助かる」
「……なあ、田中」
「何だ?」
「田中の気持ちも分かるけど、許してやっても良いんじゃないか? …彼女だって、悪気があったわけじゃないんだし」
「………」
「…じゃあ、またな」
「…………」


俺は日向の最後の言葉には反応せず、沈黙を続けた。

しばらく俺からの返事を待っていたようだが何もなかったので諦めたのか、日向は俺の部屋の前から歩き去って行く。
部屋の前から次第に遠ざかって行く足音が、静かな部屋の中に反響した。


日向はああ言ったが、俺にはどうしても『奴』を許せないのだ。
許されるはずもない。

普段は寛容かつ寛大で、些細な事には目をつむる性格の俺だが、これだけは許せなかったのだ。


俺にとって最凶かつ最悪のその事件は今朝、ほんの数時間前に起こったのだった──。


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